SS集

金属バットのグレード・インパクト

「ない! 俺の金属バットがない!」


『アップル・ベアリーズ』の店内に久羽の叫び声が木霊こだまする。せっかく眠りにつこうとしていたのに、起こされてしまった。


「ロケランで吹っ飛ばされたんじゃない?」


大方、依頼品と一緒に吹き飛ばされたんだろう。久羽は並々ならぬ涙を流している。


「俺のぉ、金属バットのグレードぉ!」


いつも短気で短絡的な久羽だが、ここまで取り乱した姿は見たことない。


「そんなに大事だったのか? あのバット。てか、名前つけてたんだ」


半ば呆れ気味に私は尋ねた。


「そう!? あれはな、俺の兄貴分が・・・」


「はいはい、語らなくていいから。それで、どうするの? 探す? 私も手伝おうか?」


「いや、アレにはGPSと名前がつけてあるから・・・一人で大丈夫だ」


GPS・・・金属バットへの愛が重い。

メンヘラ彼氏か何かかな?


「じゃあ、そういうことで!?」


スマホ片手に久羽は出掛けて行った。


Π


食べ始めたアップルパイを食べ終わる頃。


「ただいまぁ」


「おかえ・・・また随分酷いお姿で」


久羽の身体は傷だらけのぼろぼろ、服も所々に穴が空いている。


「どした、何があったんだ?」


「俺のバットをな、どこぞの半グレが拾っててから、喧嘩になった」


「いや、じゃあなんで服に銃痕が」


「バットのある半グレの家に突撃したら、ヤクザとやり合うことになってな」


「・・・何やってんだよ、マジで」


呆れながらも、今度こそ部屋で眠りについた。少し寝るのが遅くなったが、金属バットに名前を作る久羽は、少し微笑ましかった。

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