episode7 誘う理由(ワケ)

朝の教室は、いつもよりざわついていた。

蓮司はというと、珍しく教室の隅で深いため息をついていた。


(蓮司)「……無理だろ」

(翔悟)「いや、いけるって!」

横から即答したのは、東雲 翔悟。

テオの机をちらっと見やると、まだ本人は登校していなかった。

(翔悟)「とにかく自然に、昼休みとかにさ、

”一緒に食べる?”って言えばいいんだよ」

(蓮司)「お前、それが一番難しいって分かって言ってるだろ」

(翔悟)「はいはい、分かった分かった。じゃあ作戦会議すっか!」

(羽月)「何やってんだ」

(蒼空)「いや、蓮司が”人に声をかけようとしてる”とか、これはもはや国家レベルの出来事なんだよ。見過ごせないよね?」

(創太)「そらち、何言ってんだよ。まじめにやれっての」

蒼空の茶化すような言葉に、創太が突っ込む。


**

(翔悟)「まず、基本戦術としては”接近と共感”だな」

(蓮司)「なんだそれ」

(翔悟)「テオの話しに興味持ってるふりして、タイミングよく”じゃあ一緒に見に行こう”とか言うんだよ」

翔悟の目がキラリと光る。

(翔悟)「次に”偶然を装う偶然”。蓮司がたまたま屋上とか図書室にいると、そこにテオが来る―― ――偶然のふりして接触するってやつ」

(羽月)「それ、バレたら超ダサいだろ……」

(創太)「ブフォッwww!たっ確かにww」

(蒼空)「この作戦。ホントに成功すんの?」

(翔悟)「じゃあ、俺が直接テオに”最近蓮司が気にしてるぞ”って言ってやろうか?」

(蓮司)「おまっ…ふざけ……それもやめろ。全力でやめろ」


蓮司は頭を抱えた。


それでも、どこか―― ――嫌じゃなかった。


**

そんなやりとりをしていた昼休み。蓮司は、教室の窓際でいつものようにひとり本を読んでいる”ふりをしていた。

胸の奥では、激しく脈打つものがある。


(蓮司)(声を、かける。俺が、テオに)


そのとき―― ――


(テオ)「やっほ〜!今日もトゥバの”凛とした沈黙の王子スタイル”スビンに似ている、蓮司くん!」

そう言いながら、テオが笑顔で近づいてきた。眩しかった。

トゥバ…?というかスビンって誰だよ…


けれど、蓮司は立ち上がる。


(蓮司)「テオ」

(テオ)「ん?どした」

一瞬、言葉が詰まりそうになる―― ――でも、胸の奥の鼓動を信じて、蓮司は言った。

(蓮司)「……昼、一緒に食べないか?」

静かな教室の中。でも、

蓮司にとっては世界中が見てる気分だった。 テオは一瞬、驚いた顔をした。けれど、すぐに満面の笑みになった。

(テオ)「え、いいの?嬉しい!もちろんOKだよ!」

その一言で、蓮司の肩の力が抜ける。

テオはまっすぐに蓮司を見て―― ――冗談みたいに軽やかに言った。

(テオ)「誘ってくれてありがと。……正直、ちょっと、待ってた。」

蓮司の頬がほんのり熱を帯びる。

それを見ていた翔悟たち四人は、教室の後ろでひそかにハイタッチしていた。


**

その日の昼休み。蓮司とテオは、初めてふたりだけで校舎裏に向かい弁当を持ちながら、教室を出ていった。

言葉はまだ少ないけれど、その沈黙は、昨日までのそれとは少し違っていた。


少しずつ、ふたりの時間が”交わり”始める。


それはまるで、運命に一歩踏み出したような時間だった。

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