第5話「面倒なこと」
端的に言えば面倒なことになったなというお気持ちだ。
あるいは考えないようにしていたことに直面したと言えるのかも知れない、バグがバグを呼ぶなんてことは十分に知っていたことだと言うのに。
「え、えぇと、その。アキラ、様?」
「様なんかつけなくていいよ、王女様」
「あ、あぅ。で、では、アキラさん?」
「はいはい、なんでしょーか」
話を聞く限り恐らく、ではあるが。
リュール王女はバグの被害者だろう、木に触れただけで転移するなんて未発見のバグが本当にあったのなら。
「何か目的があったのであれば、大変失礼な質問になるかと思うのですが、その」
「なんで村の入り口にいた女の人に話しかけ続けてるのかって?」
「は、はい……」
若干リュール王女の青い瞳がこの人大丈夫か? みたいな色に染まってきている気がするが問題ない、これも仕事だ。
「確認は、大事だろう?」
「か、かくにん、って」
ある意味、最初にダンジョンへ行くのではなくやっぱり村へと来るべきだったのかも知れないと思う。
そうしていればこんな居心地の悪い視線を感じずに済んだだろうに。
ともあれ、だ。
「……変更が加えられている可能性がある、か」
RPGではお馴染み、なのかはいいとして。
村の入り口付近に配置されているここはどこどこの村ですと話すNPCにアクションを取りいくつか質問をし続けてみた。
それは例えば宿は何処にあるかであったり、この村の特産品は何だと言ってみたり。
結果として、壊れたレコードのように村の名称を口にし続けるということはなく。
それはあの看板を見てくれであったりわからないと言った返事をするという仕様に変わっていた。
少なくとも、俺が手掛けた範囲ではずっと村の名前を言い続けるだけだったNPCが、である。
「待たせたな。とりあえず、目的地はハイゼル大森林で良かったか?」
「あ、あれ? 私、そこから来たとか申し上げましたっけ?」
「気にせんでいいよ。見りゃわかるって話だから」
「そ、そういうもの、ですか? その、お詳しいの、ですね」
怪しすぎる人間ムーブをしている自覚はあるが、良いだろう。
元の場所に配置し直すまでの関係に過ぎないんだ、それが終われば二度と会うこともない。
「ハイゼル大森林まで一か月、ってところか。金に糸目を付けないなら半月で済むが、路銀は持っているか?」
「申し訳、ありません。手元不如意、でして」
「構わんさ。聞いてみただけだよ」
つまるところ、このリュール王女にも何かしらの変更が加えられている可能性があるということであり、その影響でバグを呼び起こした要因の一つか、原因であるかの可能性が高いということ。
王女を元の場所に配置し直して周辺のバグを確認し修正する。
物語の最後まで主人公と行動を共にするかどうかはプレイヤーの選択次第だが、シナリオの途中で必ずメインストーリー部分へと関わるキャラクターだ、バグ修正の優先度は高い。
当てもなく世界の端から端まで総当たりしていくよりよっぽど現実的だろう。
村に来てついでに勇者の存在について聞いて回ってはみたが、勇者について話すNPCは勇者のゆの字すら話さなくなってるところを鑑みるに、まだ主人公は現れていないことが伺え時間に余裕はあると思う。
「とりあえず、旅の装備を整えよう。申し訳ないがリュール王女、あんたは俺の奴隷ということにして話を進めるが構わないか?」
「……必要なこと、ですわね。問題ありませんわ。お気遣いいただきありがとうございます」
とにもかくにも、最初の目的地は定まったし、準備を進めることにしようかね。
狩りに狩ったゴブリンとオークの素材を換金してから、リュール王女の装備を整えるために服屋へとやって来た。
「ヒッヒッヒ、旦那ぁ……いい奴隷連れてますねぇ? どうです? うちぁ仲介もやってんですけどね?」
「アレに足る額をアンタが出せるとも思わんよ。良いからさっさと服を選んでくれ」
お約束としてエルフは森を焼かれるし奴隷にされる。
フォルトゥリアの設定を紐解けば、かつて魔族と人間が争った時に魔族側についたことが理由ではあるがありがちというヤツだろう。
「いやいや、聞いて下さいよ旦那。どうです? これくらい出しやすぜ?」
「二度目はないぞ」
「……ち」
しかしながらこういうところに力を入れるくらいならシナリオを捻ってくれたらと思ったりはする。
ただシナリオではなく設定を捻った結果かどうかは知らないが。
昨今むちむちぼーんなエルフから、古き良きスレンダーなエルフと幅が広くある中で、フォルトゥリアではスレンダーであればあるほどエルフとして美人という設定がある。
そう言った美醜観の中でリュール王女は実にまな板、もといスレンダーな体型だ。正直あの壁穴状態は何処に何がつっかかって抜け出せなかったのかわからないくらい。
挙句金髪エルフが多い中で、白金の髪を持つ稀少なエルフであることも含めて、極めて美人な位置づけとなるだろう、奴隷として値段をつけるなら両手両足の指では足りない。
「あぁ、そうだな。二度目が無いという意味は口にするつもりはないというより、二度目はアンタの耳に届かないと言う意味だ。わかってくれるか?」
「わ、わかりやした、わかりやした。妙な真似はしやせん、約束しやす」
逃げるように離れて行った店主の男を見送る。
「……その、ご迷惑をおかけしますわ」
「迷惑だと思っていたのならそもそもあのダンジョンでサヨナラしてる。気にしなくていいよ」
正直あの店主にしてもそうだが、所詮は設定に沿ったキャラクターたちだ、そう言うものなのだからいちいち気にするだけ無駄で無意味である。
「ほら、早く着替えて来てくれ」
「かしこまり、ましたわ」
ただ、こうして高慢なツンデレエルフとして設定されているはずのリュール王女が、期待していた言葉ではなかったせいか肩を落としてトボトボ歩いていく姿を見ると。
「どうなってるのやらね」
何処まで俺の知っている設定があてになるのか不透明で仕方ないよ。
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