第2話 英雄システム
ドラゴンキャッスルでは初めに五つの種族から一つを選ぶ。
これは後で変更することができず、例外は無く一生その種族でプレイすることになる。
五つの種族とはヒューマン、エルフ、ドワーフ、アルケミスト、アンデッドの五つである。
それぞれに特徴があり、唯一無二の種族スキルなどもある。
私がその中で選んだ種族はアンデッドだ。
アンデッドは五つの種族の中で基本ステータス値が一番低く、物理にも魔法にも弱い傾向がある。
だが作成コストや維持コストが低く、特に食料を基本的に必要としない利点が大きい。
また、敵味方ユニットの死体に応じてこちらがアンデッド召喚できるなど特典があったりもある。
短期戦には向かないが長期戦向けの種族である。
――なぜ選んだか?
そんなの一番不人気だったから、それが一番の理由だ。
実際の所、かなり扱いづらい種族であり、長期戦になるまでもなく他種族に轢かれ戦争維持できず
農耕プレイに変更したり、引退したアンデッドも数多くいたとか。
◇◆◇
「主様ってば、いつまで寝てるんですか? 起きてください!」
透き通った鈴のような声が耳元で跳ねる。
意識の混濁を振り払って目を開けると、ドアップで桃色のツインテールが視界を占拠した。宝石のような瞳が不安げにこちらを見つめていたが、私の覚醒に気づくと、パッと花が開いたような笑顔に変わる。
「もう、心配したんですよ? ようやく起きてくれましたね」
(アニス……?)
困惑混じりにその名を呼ぶと、彼女は嬉しそうに胸を張った。
「そうです! 不死メイド隊の内政担当、アニスです。忘れてしまったんですか? 寂しいこと言わないでくださいね、主様!」
◆
ドラゴンキャッスルというゲームの醍醐味、それは「英雄システム」に集約される。 英雄とは、プレイヤーが綴ったフレーバーテキスト――つまり性格や背景設定を元に、命を吹き込まれる分身のような存在だ。
プレイヤーにとって我が子のような大切な存在である。
英雄にはレベルとステータスの概念があり、プレイヤーは一定の範囲内で初期ステータスと成長傾向を自由に設定でき、国の発展とともに英雄の枠は増えていき、最大で八名である。
私が初めて創造したのが、この『アニス』だった。
鮮やかな桃色のツインテールに、まだ幼さの残るあどけない顔立ち。
トパーズを嵌め込んだような澄んだ黄色の瞳。性格設定は「天真爛漫」とし、誰とでも打ち解ける親しみやすさを持たせた。
彼女は「内政担当」を自称しているが、その実態はゴリゴリの脳筋ウォリアー。巨大な斧を振り回す、破壊のスペシャリストなのだ。
(可愛い美少女メイドがいかつい武器持ってるってだけで萌えるじゃん!)
というノリで生み出した。
もちろん、後悔などしていない。
◆
「主様、大変です! 緊急事態ですっ!」
アニスが腕をぶんぶんと上下に振り回し、顔を真っ赤にして叫ぶ。
その必死な様子に、ようやく覚醒した私の思考が急速に現実へと引き戻された。
「主様、私たちの拠点が……拠点がなくなっています! どこを見ても、影も形もないんです!」
私はアニスの背越しに、周囲の景色へと視線を投げた。
そこで目にしたのは、地平線の彼方まで続く、ただ広いだけの、何もない草原と平原。
風が草をなでる音だけが虚しく響き、何万時間という歳月をかけて積み上げてきた強固な城壁も、活気あふれる城下町も、すべてが幻だったかのように消え失せていた。
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