第2話 才色兼備なあの子

心花ちゃんのハグはいつになっても慣れない。

抱きしめられていたところがまだ熱いよ……。


「いけーっ」

「ナイス!上手すぎる!!」

「ドンマイ次いこう!」


外から声が聞こえて私は窓の外に目をやる。

テニスコートで試合をしている生徒たちが見えた。


そういえば心花ちゃんのクラスは2限目、体育なんだっけ。

体育はいい。汗水流す女の子たちが見られる。

そしてこの席も素晴らしい。窓際の後ろから2番目。我ながらファインプレーだ。


あ……心花ちゃん。

いつものツインテールをお団子にしていてなんともかわいい。

やっぱりこのくらいの距離から眺めるのがちょうどいいなぁ……。

正常心で女の子たちを見ることができる。


しばらく眺めていると、心花ちゃんと目が合う。

次は彼女の出番らしい。


ん?何か伝えようとしてる?


み、て、て


伝え終わったあと、心花ちゃんはすぐに相手を見据えて、サーブを打つ。


ひぇぇ……なんだあの豪速球……怖い。

私だったら反応もできないような球を打つ心花ちゃん。

運動ができる女の子。とても大好き。

だけど相手もなかなかに上手らしい。サーブをうまく返している。


プロか?プロなのか??プロだよね???

壮絶なラリー。

相手のポニーテールの女の子のサラサラな髪が気になるところだけど、ラリーもすごい!


長いラリーを制したのは心花ちゃんだった。

同じクラスのお友達と喜びあったあと、私をじっと見て笑顔を見せる。


「っ……」


不覚にも心臓が高鳴ってしまう!

この距離でも私にダメージをくらわせるのか、あの美少女め……!


耐えられなくなった私はカーテンで物理的に視界を遮った。


抱きしめられたときの熱がぶり返してきて、私は頭を悩ませた。




***




6限目が終わって、ホームルーム後は今日は月に1度の全校生集会の日。


床が硬くて全身痛くなるし、先生のお話は長いし、正直好きじゃない。

……今までは。


この高校では、週1で行われる確認テスト上位の生徒が表彰される制度がある。

なんて素敵な制度なんだろう!

これによって、毎月この日は表彰される女の子が見られる!

ありがたい。きっとこれは私のモチベーション維持のために違いない。


ああ、もちろん私が名前を呼ばれることはないんだけどね。


いろいろなお話が終わったあと、ようやく表彰の時間がやってきた。

3年生から順番に、成績順に名前が呼ばれていく。

賞がもらえるのは各学年につき3人まで。クラスは全部で5クラスあるから、賞をもらうのはかなり厳しい。


「______七雲心花」

「はい」


2年生のトップに呼ばれたのは美少女だった。

順位の差はあれど、1年生の時から毎月呼ばれているのは、本当にすごいことだと思う。

もちろん勉強ができる女の子もとても大好き。


心花ちゃんは慣れた動作で賞状を受け取った。



全校生集会が終わって、昇降口へ続く廊下を歩きながら改めて思う。

運動もできて勉強もできる心花ちゃんが、なんで私に好きと言うのか。

「人違いじゃないですか」この言葉を言うのが怖くてずっといえないままここまで来てしまった。

心花ちゃんのこと、嫌いだなんて思ってはいないけど……。


「心花すごいよ!今回も表彰されてさ!」

「ね!私も今回は頑張ったつもりだったんだけどなぁ」


噂をすればなんとやら。

前から、部活に向かうのであろう心花ちゃんグループがやってきた。


どうしよう、直視できない……っ!

ガン見することもできないし、さっきまで彼女のことを考えていたせいか、なんか気まずいし!?


私に気付きませんようにと願いながら、穴を開ける勢いで床を見つめる。


「山崎さん」


気付かれた!!!

無視するわけにもいかないか……。


「七雲さん。今から部活?頑張ってね」

「うん。ありがと。山崎さんは今から帰るんだよね?またね」

「また明日」


それとない会話をして、お互いすれ違っていく。

このドキドキはそう、心花ちゃんのせいだ。


すれ違ってから数秒後、振り返る。


ま、た、あ、し、た


こっっっっっっっっんんの美少女め!!

まるで私が振り返るとわかっていたみたいに!


してやったりと言うような笑みを見せて、心花ちゃんは行ってしまった。


ああもう、また体が熱くなる。

全部全部、あの子のせいだ!

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