第2話 リーダー、目覚める

――時は、中学1年生の頃にさかのぼる。


中学では二クラス合同で体育を行うため、体育館に集合していた。

入学後の体力測定を全て終えたので、今日からダンスが始まる日だ。

海吏が鼻歌を歌いながらストレッチしていると、クラスメイトが話しかけてきた。


「海吏機嫌いいじゃん」

「分かる? 俺ダンス好きなんだよね」

「そうなんだ。初めて知ったわ」

「小学校の時はソーラン節くらいしかやってないからねー」


海吏は笑いながらストレッチを続ける。

少しして、体育の先生が声を張り上げた。


「はーい! 今からグループ分けするんで、名前呼ばれたら集まってー!」


先生の声がよく聞こえる場所まで近付くと、早速海吏の名前がコールされた。


「Aグループ、『浅見海吏あさみかいり』『東陸叶あずまりくと』⋯⋯」


早々と呼ばれた二人は、目を見合わせて笑顔を浮かべた。


「よろしく東。小学校から一緒だけど、俺ら話すの初めてじゃん?」

「こちらこそよろしく。そういや、同じクラスになったことなかったね」


――もしこの時、体育の先生が『五十音順』にグループを組んでいなければ、7人の少年たちの運命が交差することはなかっただろう。


「まずは、全グループ課題の振付があるから、そこを練習するように。課題の振付を覚え終わったら、サビの一部だけ各グループのオリジナルで考えて貰うから」


先生の説明に、ダンス未経験者たちから悲鳴にも似た声が上がった。


「先生ー! 俺らのグループ、ダンス経験者いないんですけどー!」


困った様子の男子生徒に、先生はその程度想定していたかのように答えた。


「その場合は先生がヘルプに行くから、まずは動画を見て課題の振付を覚えるところから始めてごらん。皆で協力してな」

「へーい」


不満そうではあるが、そう言われてしまっては致し方ない。

各グループ話し合いが始まったので、海吏たちのグループの女子も不安そうに質問を投げかけてきた。


「この中にダンス経験者っている?」


海吏はスッと手を上げた。


「あぁ! 俺経験者。振付もできるよ」

「マジ!?」

「良かったー!」

「助かった!」


グループのメンバーが安堵の色を浮かべる。

どうやら他は未経験者らしい。


「え、じゃあ俺に任せて貰っちゃっていい?」

「勿論!」


全員が一も二もなく賛成したので、海吏は少し思案したのち説明を始めた。


「一旦、課題の振付を皆で覚えよう。皆の覚えた感じで、サビの振付を考えよっかなーと」


女子が目を丸くした。


「そんなことできるの!?」


尊敬の眼差しを向けられ、海吏は眉尻を下げて苦笑する。


「まぁ、あくまで『一中学生が考えるレベル』ってことだけ覚えといて」


海吏の意見に反対する者などいなかったので、まずは全員で動画を見ることにした。

使用されていたのは、9人組の国民的男性アイドルグループ『IgNINEteイグナイント』のものだった。

昨年メンバー主演のドラマの主題歌になったもので、エンディングで出演者が踊っていたダンスも話題になったものだ。


「IgNINEteのじゃん! あたしこの曲大好き」


女子の1人が興奮して横にいる女子を揺する。


「じゃあ、サビもIgNINEteっぽくする?」


海吏の提案に、女子たち全員が驚きの声を上げた。


「できるの!?」

「まぁ、見様見真似でなんとなくだけど。俺IgNINEte好きだし」

「えー! 流石IgNINEteなんだけど! 男子にも推されてるだなんて!」

「浅見くん誰推しなの?」


その盛り上がりに水を差すように、一人の男子が冷やかしの言葉を投げかけた。


「男なのに男のアイドル好きなのかよ?」


海吏が口を開く間もなく、女子たちが結束して立ちはだかった。


「はあぁぁぁ!? アンタ何言ってんの!?」

国民的・・・アイドル『IgNINEte』だよ? ライブも男の人めっちゃ多いんだから!」

「逆にアンタIgNINEte嫌いなわけ? ファンクラブ入ってる私にケンカ売ってる?」


女子たちは一斉に詰め寄る。

空気を読まずに暴言を吐いた結果、まさか女子たちから猛攻を食らうとは思っていなかったのだろう。

男子生徒は何も言い返せず顔を真っ赤にして震えていた。


「まぁまぁ、多分コイツもそこまで深い意味無く言っただけだと思うんだ」


落ち着いた穏やかな声で間に入ったのは、陸叶だった。


「IgNINEteのことも良く知らないだろうし、皆で教えてあげるのはどう?」


陸叶の提案に、女子たちも振り上げた拳を収めることにした。


「浅見くんがそれでいいなら……」


海吏は慌てて手のひらを左右に振った。


「いや、俺全然気にしてないし。あ、でも一個だけ言えるのは――IgNINEte、むちゃくちゃカッコいいよ」


海吏の笑顔に、男子生徒は気まずそうに「悪かった」と呟いた。

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