第二話 慰労

「終わった〜!」


無事にイベントの一日が終了した、という喜びが店内に満ちる。

バッタバタだったけれども、スタッフが一丸となり、見事設定目標を超えた来店数、契約数を達成した。


「いや〜、みんなお疲れ様!

やったね、目標達成!しかも、店舗の新規契約数の記録更新だぜ!」


「吉村マネージャーもお疲れ様でした!

ずっと焼き場で大変だったでしょう〜、

何回くらい焼いたんですか?」


今日はずっと焼きそば焼いてたんだよな、オレ。

この炎天下で火のそばにいたから思わず熱中症になりかけて、フラッと来た時は焦った。

すぐに塩を口に放り込んで、少し休んだら治ったからいいんだけどさ。

「300食用意したの、15時には無くなっちまってさ。

急いでスーパー行って買い足して来たよ。

買い占めちまったから、今日はどこの家庭でも焼きそばは出ないぜ?」


「すごいですね!

マネージャーの焼きそば、本当美味しいですよね!

お祭りの出店の焼きそばみたいですもん!」


「あぁ、それはだし汁と酒を合わせてるしな、この一手間がコツだよ。

みんなも食べられたかい?」


「「「「はい、美味しかったです!」」」」


みんな今日の修羅場を乗り切っていい笑顔で笑ってやがる。

やっぱりイベントの達成感っていいよなぁ。

「よし、片付け終わったらメシ行くか!」


「やった!

マネージャーの奢りですか!?」


「んなわけあるか!

ちゃんと経費で出すよ!

だから心配しないで思いっきり食べようぜ!」


「ありがとうございます!


みんなー!

マネージャーが飲み連れてってくれるって!

何食べたい〜?」


途端に湧き上がる歓声。

なんでイベント中より元気いいんだよ…。

思わず苦笑を漏らしながら、片付けの手を動かす間に決まったらしい。

「マネージャー!みんな焼き肉が良いみたいです!

牛角で良いですかね?」


若いなぁ、なんて思いながら、焼き肉と聞いてオレの腹もキュウ、と鳴る。

「おう、良いじゃないか!

先に電話して席抑えとけよ。」


「分かりました!

あの……今日はマネージャーも来るんですよね?」


店長の声にはどこか咎めるような響きが籠る。

「ああ、もちろんさ!

ただ、報告書とかもまとめないといけないからな。

遅れて参加させてもらうよ。」


見る見る内に店長の表情が萎んでいく。

「マネージャー……いつもそう言って、会計の時にしか来ないじゃないですか……。

みんなマネージャーが居たって、遠慮なんかしないですよ!

一緒に行きましょうよ!」


確かな喜びと同時に、小さく胸が疼く。

「そうは言ってもな……。

やっぱり、オレがいると本社とかキャリアの悪口も言えないだろ?

まあ、書類が終わったらすぐに向かうよ。

それまではみんなで楽しんでてくれよ。」


店長が口をすぼめて、甘えたような声色を吐く。

「約束ですよ?

みんなで待ってますからね!」


「ああ、わかったよ。

じゃあ、滝田店長みんなを頼むな。」


「分かりました!」


ごめんな、オレは行けないんだ。


オレはこうやって、みんなで食事会、という時には毎回約束をさせられる。

あの日から守ったことは一度もない。


最低な嘘を吐いていることは分かっていても。



どうしても、オレだけが楽しい食事を摂ることに、抗えない抵抗があった。

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