ゾンビだらけの終末世界で俺たちわりと無双界隈

卯月

第1話 これって本当にゲーム……なんだよな?

 おれはせた姿勢で狙撃銃そげきじゅうをかまえ、スコープ越しに標的ターゲットをねらう。

 はるか遠距離にいる相手は生きている死体、いわゆるゾンビだ。

 見ているだけで吐き気をもよおすようなひどい腐乱ふらん死体したい……。


 タァァンン……!


 んだ青空に銃声がひびきわたる。

 ほぼ同時におれの銃弾がグロテスクな顔面をつらぬいた。


「よっしゃ! クリティカルヒット!」

『お見事です』


 ガッツポーズをきめるおれの脳内に女の声が響いた。

 こいつは「N.O.V.A.(ノヴァ)」。

 おれの脳内に埋め込まれている(という設定の?)超小型スーパーコンピューターだ。

 案内係ナビゲーターとしてこの世界のことを色々と教えてくれるし、話し相手にもなってくれる。


「ゾンビにはマシンガンやショットガンってイメージだったけど、ライフルもいいもんだな」

『はい。スナイパーライフルは近接戦闘には不向きという難点もありますが、遠距離から一方的に攻撃できるという利点があり有効な選択肢の一つといえます』


 おれは残りのゾンビたちも狙撃銃で次々と撃ち倒し、楽勝でミッションをクリアした。

 過去のミッションで手にいれたオフロードバイクにまたがり、廃墟はいきょとなった街並みにエンジン音をとどろかせながら基地に帰還する。


「本当にすげえリアルだ。ノヴァ、これ本当にゲームの世界なんだよな?」

『ゲームです』


 ノヴァはいつだってなくおなじ答えを返してくる。

 しかし痛みも苦しみもある自分の肉体。

 吹きつける風。

 廃墟の街。

 動きまわるくさった死体。

 あまりにもリアルすぎて、こんなゲームはどこの会社も作れないだろうと思うのだが。

 しかしおれにとって唯一ゆいいつの情報源であるノヴァは『ゲームです』としか答えない。

 なんかかくごとをされているような気がするんだけど、それもゲームが進めば明らかになるのかな。


 そんなことを心の中で考えているおれはコードネーム「01ゼロワン」。

 本名はわからない。記憶がないんだ。

 実はけっこう最近コールドスリープから目覚めてこの『ゲーム』をはじめたばかりだったりする。

 自分が誰なのかも分からないまま。

 そしてゲームのタイトルも知らないまま。

 ノヴァに言いなり状態で日々のミッションをかさねて自分をきたえているってわけ。

 おれがゼロワンってことは、ゼロツーとかゼロスリーとかもきっと居るんだろう。

 そいつらともいつか出会えるのかな。

 あるいはとっくの昔にくたばっちまったのかもしれんけど、それならそれで一匹狼いっぴきおおかみとして生きるだけさ。


 あれこれ考えながらもおれのあやつるオフロードバイクは廃墟の街並みに砂塵さじんをまき散らし、基地ホームへ無事帰還した。

 途中でチョコチョコっと単体のゾンビに出くわしたりもしたが問題にはならない。

 一匹くらいはもう楽勝でたおせるまでレベルアップしてるんだ。

 いまは狙撃銃の他にも拳銃ハンドガン西洋剣サーベルを装備している。

 スキルツリーをレベルアップさせていくたびに武装が増えるんだ。

 こういうゲームらしさはやっていて楽しいよな。


 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


『ゼロワン。生存者がこの基地に接近しつつあります』


 基地に帰ってメシを食っていたら、ノヴァに突然そんなことを言われた。


「生存者? 新イベントか?」

『はい。生存者は二名。

 大柄おおがらな成人男性と小柄こがらな十代の少女です。

 二人はなんとゾンビの群れに追われています。

 あなたが救助しなければ助からないことでしょう。

 救援にむかいますか? それとも食事をつづけますか?』


 なんともイヤな質問の仕方をするやつだ。

 ここで見捨てるようではゲームの主人公失格じゃねえか。


「もちろん行くぜ、ヒーロー参上だ!」


 武装は軽機関銃ライトマシンガン拳銃ハンドガンを選択。

 ふたたびバイクで走り出す。

 まってろ、いま行くぜ!

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