ぼちぼち、人恋しい季節 ー絶望の縁で彼は願うー
久遠 れんり
第1話 キャンプ
「今日はこの辺りにするか」
今日もソロキャンプ。
喧噪を離れて、心静かに居られる至高の時間だ。
周囲の森から薪を拾い集める。
薪にするのはよく乾いた枝など。
火付け用の
缶に小さな穴を開けて、中に素材を入れた後、たき火の端に置いておけば作ることができる。
手に入れた、ファイヤースターターが便利だ。
これは
まあ火打ち石だな。
火がつきにくいときには、ロッドを少し削って、粉を落としてから火をつけるとつきやすい。
キャンプ場などでは直火が禁止されている所がある。
その場合は、焚き火台などを使用すること。
此処はそんな規定などないから、石をサークル状に積んで竈にする。
途中の沢で捕ったイワナの腹を処理して、塩を振る。
串に刺して、火の周りに並べる。
今日は雨が降っていないのだが、山の天気は変わりやすい。
曇天の場合は注意した方が良い。
本当は洞窟かオーバーハングした、岩の下とかがあれば良いのだが、そんな都合の良いものは少ない。
斜めにタープを張り、雨が流れるように気を付ける。
俺は、
こう見えて、モテたことがない。
今は、髪の毛を後ろで結んでいるのだが、ずっと髪は短く、シュワル○ェネッガーとかゴリラとかまあ色々なあだ名をつけられた。
身長は百八十二センチくらいだから、そんなに威圧感もないだろうに。
だがそのおかげで、彼女にプレゼントや食事をおごったりすることも無く、自由に金を使えた。
若い頃はバイクに乗ってぷらぷらしていたが、仲間達は彼女が出来ると、危ないとか言われて徐々に皆は降りてしまった。
その後は、軽クロカン乗り換え、休日になると色々なところで好きな物を見て、食べた。
自由気ままな青春? だ。
何物にも変えがたい時間と経験。
だが、友人達は二十五歳を越えた辺りから、結婚をし始めた。
そして口を揃えたように言うんだ。
「結婚は良いぞ」
「年を取って一人は辛いだろ」
「彼女が最高だ」
などとまあ、大多数は数ヶ月とか数年で別れるのだが、それでも繰り返し彼女を求める。
俺にはよく判らない世界だ。
自由気ままな日常。
ふだん贅沢をしなければ、物価高でも、年に数回旅行ができる余裕はある。
色々なところを回り、見て感じて体験して自分の経験となる。
そう自分の血肉となるのだ。
馬鹿な奴らだ。
生活が厳しくて、苦労しているとぼやく友人達。
子どもが出来ると、奥さんは働けず、所得は半減。
慣れた暮らしから、急に節約など出来ないのが人間だ。
幾度か金の無心をされたこともある。
まあそれも人生。
俺は、熱いコーヒーを飲みながら、ほっと一息をつく。
雄大な自然。
こんな景色を見ると、いかに人間がちっぽけかと理解ができる。
一人が出来ることなど限られている。
「だけどまあ、これからもっと寒くなるだろう」
一人だとつい独り言が増えてしまう。
「旅行は終わりだな。家へ帰るか……」
あっちこっちを巡り、長く旅行をしてきたが、明日には帰ろうかと決心をする。
周囲を探索をして、何か良いものが生えていないかを確認する。
この時期なら、もう山芋の蔓とかは、枯れているから気を付けないと見落としてしまう。
ヒラタケなどが見つかればごちそうだ。
だが上手くは行かないもの。
諦めて、魚と缶詰を食べる。
沢で冷やしたビールも美味い。
食事をして落ち着くと、ゆっくりとたばこを取りだし、木の枝に移した火でふかし始める。
煙を深く吸込み、少し留めて、吐き出す。
随分前にやめていたのだが、この半年。また吸いだしてしまった。
周りに文句を言う奴も居ないし、長生きもしたくない気もする。
今はこの一本による、癒やしの方が俺の心には必要だ。
半年前のあれは、俺にとってかなりのショックだった。
そう…… 最悪の経験。
落ち込んだ気分を、叫ぶことで振り払う。
「あー、美味いコーヒー入れよう」
誰も居ない山。
心が落ち着く。
これで雲が晴れて、星でも出れば最高なんだが、そんな願いは聞き届けられないようだ。
動物避けにも火は絶やさない。
この辺りでは、途中で野生動物を見かけた。
人心地をつくと、俺はテントに入り、寝袋の中に潜り込む。
何も考えずに眠りに入る。
朝、目が覚めれば、今日もやはり曇天。
「雨が降る前に片づけるか」
テントなどが濡れてしまうと、片付けるのも大変だし、濡れたまま丸めておくとカビも生える。
キャンプギアの管理は重要だ。
すっかり慣れ、そんなに時間も掛からずにすべてを片付ける。
途中の罠で獲物を拾っていく。
昨日のヤマメなども罠で捕ったのだ。
この沢なら、きっと遊漁券も必要ないだろう。
知らんけど。
少し下ればバイクがある。
この辺りには道が無いから、移動にはバイクが重宝している。
「そう言えば、燃料も入れとかなきゃな」
俺は足早に坂を下っていく。
少し長かったキャンプ生活も、この寒さではお預けだ。
雪の上で雪中キャンプもやってみたいが、かなりリスクがある。
熊でも出れば一発アウトだ。
それに吹雪や気温の低下。
そして雪崩の危険。
人間は結構ひ弱なのだ。
「おっ、あったあった」
きちんとそこにあったバイクにまたがり、俺はセルを回す。
「結構良いところだったな」
山の頂方向を眺めると、そんな言葉が出た。
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