ぼちぼち、人恋しい季節 ー絶望の縁で彼は願うー

久遠 れんり

第1話 キャンプ

「今日はこの辺りにするか」

 今日もソロキャンプ。


 喧噪を離れて、心静かに居られる至高の時間だ。


 周囲の森から薪を拾い集める。

 薪にするのはよく乾いた枝など。

 火付け用の火口ほくちは麻布やがまの穂などを蒸し焼きにしたチャークロスというもの。


 缶に小さな穴を開けて、中に素材を入れた後、たき火の端に置いておけば作ることができる。


 手に入れた、ファイヤースターターが便利だ。

 これは金属棒ロッド金属板ストライカーをこすり合わせて火花を飛ばす道具。

 まあ火打ち石だな。

 火がつきにくいときには、ロッドを少し削って、粉を落としてから火をつけるとつきやすい。


 キャンプ場などでは直火が禁止されている所がある。

 その場合は、焚き火台などを使用すること。


 此処はそんな規定などないから、石をサークル状に積んで竈にする。

 途中の沢で捕ったイワナの腹を処理して、塩を振る。

 串に刺して、火の周りに並べる。


 今日は雨が降っていないのだが、山の天気は変わりやすい。

 曇天の場合は注意した方が良い。


 本当は洞窟かオーバーハングした、岩の下とかがあれば良いのだが、そんな都合の良いものは少ない。


 斜めにタープを張り、雨が流れるように気を付ける。


 俺は、代地だいち 遥歩あゆむ三十五歳。

 こう見えて、モテたことがない。


 今は、髪の毛を後ろで結んでいるのだが、ずっと髪は短く、シュワル○ェネッガーとかゴリラとかまあ色々なあだ名をつけられた。


 身長は百八十二センチくらいだから、そんなに威圧感もないだろうに。


 だがそのおかげで、彼女にプレゼントや食事をおごったりすることも無く、自由に金を使えた。

 若い頃はバイクに乗ってぷらぷらしていたが、仲間達は彼女が出来ると、危ないとか言われて徐々に皆は降りてしまった。


 その後は、軽クロカン乗り換え、休日になると色々なところで好きな物を見て、食べた。

 自由気ままな青春? だ。

 何物にも変えがたい時間と経験。


 だが、友人達は二十五歳を越えた辺りから、結婚をし始めた。

 そして口を揃えたように言うんだ。

「結婚は良いぞ」

「年を取って一人は辛いだろ」

「彼女が最高だ」

 などとまあ、大多数は数ヶ月とか数年で別れるのだが、それでも繰り返し彼女を求める。

 俺にはよく判らない世界だ。


 自由気ままな日常。

 ふだん贅沢をしなければ、物価高でも、年に数回旅行ができる余裕はある。


 色々なところを回り、見て感じて体験して自分の経験となる。

 そう自分の血肉となるのだ。


 馬鹿な奴らだ。

 生活が厳しくて、苦労しているとぼやく友人達。

 子どもが出来ると、奥さんは働けず、所得は半減。

 慣れた暮らしから、急に節約など出来ないのが人間だ。


 幾度か金の無心をされたこともある。


 まあそれも人生。

 俺は、熱いコーヒーを飲みながら、ほっと一息をつく。

 雄大な自然。

 こんな景色を見ると、いかに人間がちっぽけかと理解ができる。


 一人が出来ることなど限られている。

「だけどまあ、これからもっと寒くなるだろう」

 一人だとつい独り言が増えてしまう。


「旅行は終わりだな。家へ帰るか……」

 あっちこっちを巡り、長く旅行をしてきたが、明日には帰ろうかと決心をする。


 周囲を探索をして、何か良いものが生えていないかを確認する。

 この時期なら、もう山芋の蔓とかは、枯れているから気を付けないと見落としてしまう。


 ヒラタケなどが見つかればごちそうだ。

 だが上手くは行かないもの。

 諦めて、魚と缶詰を食べる。


 沢で冷やしたビールも美味い。


 食事をして落ち着くと、ゆっくりとたばこを取りだし、木の枝に移した火でふかし始める。

 煙を深く吸込み、少し留めて、吐き出す。

 随分前にやめていたのだが、この半年。また吸いだしてしまった。


 周りに文句を言う奴も居ないし、長生きもしたくない気もする。

 今はこの一本による、癒やしの方が俺の心には必要だ。


 半年前のあれは、俺にとってかなりのショックだった。


 そう…… 最悪の経験。



 落ち込んだ気分を、叫ぶことで振り払う。

「あー、美味いコーヒー入れよう」

 

 誰も居ない山。

 心が落ち着く。

 これで雲が晴れて、星でも出れば最高なんだが、そんな願いは聞き届けられないようだ。


 動物避けにも火は絶やさない。

 この辺りでは、途中で野生動物を見かけた。


 人心地をつくと、俺はテントに入り、寝袋の中に潜り込む。


 何も考えずに眠りに入る。


 朝、目が覚めれば、今日もやはり曇天。

「雨が降る前に片づけるか」

 テントなどが濡れてしまうと、片付けるのも大変だし、濡れたまま丸めておくとカビも生える。


 キャンプギアの管理は重要だ。


 すっかり慣れ、そんなに時間も掛からずにすべてを片付ける。


 途中の罠で獲物を拾っていく。

 昨日のヤマメなども罠で捕ったのだ。

 この沢なら、きっと遊漁券も必要ないだろう。

 知らんけど。


 少し下ればバイクがある。

 この辺りには道が無いから、移動にはバイクが重宝している。


「そう言えば、燃料も入れとかなきゃな」


 俺は足早に坂を下っていく。

 少し長かったキャンプ生活も、この寒さではお預けだ。


 雪の上で雪中キャンプもやってみたいが、かなりリスクがある。

 熊でも出れば一発アウトだ。

 それに吹雪や気温の低下。

 そして雪崩の危険。


 人間は結構ひ弱なのだ。

「おっ、あったあった」

 きちんとそこにあったバイクにまたがり、俺はセルを回す。


「結構良いところだったな」

 山の頂方向を眺めると、そんな言葉が出た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る