第17話 好きなこと。

図書室に入った瞬間、

空気が変わった。


静かで、

でも冷たくない。


高い天井。

壁一面の本棚。

光は控えめで、

紙の色が一番よく見える明るさ。


……落ち着く。


本の数は、

正直、圧がすごい。


背表紙の並びが、

もう情報量。


文字は、

ほとんど読めない。


でも、

それでも。


嫌じゃない。


紙の匂いとか。

表紙の質感とか。

挿絵の色味とか。


そういうのは、

分かる。


ボクは、

侍女さんの方を見た。


「……あの」


声を落として。


「絵が多い本、

 ありますか?」


ちょっと、

申し訳なさそうに。


「文字、

 あんまり読めなくて」


侍女さんは、

少しだけ目を丸くしてから、

すぐに頷いた。


「もちろんございます」


「挿絵や図版を

 主とした書も、

 多く保管されております」


……助かる。


案内されて、

何冊か、

台の上に置かれる。


厚い本。

重い。

表紙が硬い。


ページを開く。


絵。

地図。

植物。

建物。

模様。


意味は、

分からない。


でも。


それを見た瞬間、

ふと思い出した。


小学生の頃。


昼休み。


外で遊ぶのが、

あんまり得意じゃなくて。


いつも、

一人で図書室にいた。


誰かに誘われなかった、

とかじゃない。


誘われても、

行かなかった。


騒がしいのが、

苦手だった。


だから、

本棚の間に座って。


文字のない図鑑とか。

間違い探しとか。


内容は、

正直どうでもよくて。


眺めてるだけで、

時間が過ぎていった。


読めなくても、

分からなくても、

問題なかった。


誰にも、

何も言われなかった。


今。


王城の図書室。


本は、

とんでもなく多い。


文字も、

読めない。


でも。


やってることは、

同じだ。


眺めてるだけ。


ページを、

めくるだけ。


環境は、

全然違うのに。


静かで、

紙の匂いがして。


誰にも、

急かされない。


……懐かしい。


理由は、

分からない。


でも。


ここ、

嫌じゃない。


天使でも。


一人でも。


図書室は、

変わらない。


それだけで、

少しだけ、

落ち着いた。




しばらく経ってから、

ふと思った。


普通、

こういう場面って。


主人公が、

何かを考察したり。

意味を見つけたり。

伏線っぽいものを拾ったり。


……するんだと思う。


でも。


正直、

分からない。


綺麗な花の絵とか。

料理の絵とか。

建物の挿絵とか。


今、

見てるのは、

そういうのばっかりだし。


それに。


多分、

ここに

「重要なこと」は

置かないと思う。


そんな気がする。


ボクは、

悩むのが、

好きじゃない。


頭も、

別に良くない。


考えすぎると、

だいたい疲れる。


でも。


知るのは、

好きだ。


理解できなくても。

意味が分からなくても。


誰かが大事にしてきたものを、

見たり。

触れたり。

知った気になるのは、

嫌いじゃない。


だから。


今は、

それでいい。


時間の許す限り。


この世界の、

文化に触れたい。


天使でも。


それくらいは、

許されるはずだから。



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