Stage.3:残響と新しい足音
祭りのあとの、静かな革命
文化祭ライブの熱狂から一夜明け、誰もいない早朝の音楽室。
ナツミは一人、窓の外を眺めていた。昨日、あれほど眩しかったステージのライトはもうない。けれど、掌に残るマイクの重みと、喉に残るかすかな痛みが、すべてが現実だったことを教えてくれる。
「……終わったんだ」
ポツリと漏らした言葉は、寂しさではなく、清々しさに満ちていた。《渇いた心》に流れ込んだのは、かつての自分を縛り付けていた執着ではなく、次の一歩を踏み出すための勇気だった。
情熱に抱かれた代償
部室のドアが勢いよく開き、ユイが飛び込んできた。手には地元のライブハウスのチラシが握られている。
「ナツミ、見た!? 昨日の動画、SNSでとんでもないことになってるよ!」
昨日、ギターの弦が切れた瞬間の、あの狂気じみたソロ。ナツミがそれに応えて喉を鳴らしたあの絶唱。《運命を無理やり変えよう》とした4人の姿が、画面越しに多くの人の心を揺さぶったのだ。
「学校の中だけじゃ、収まりきらなくなったみたい」
ユイの言葉に、後から来た1年生たちも顔を見合わせる。
「私たち……もっと広い場所で、弾いてもいいんですか?」
「当たり前でしょ」ナツミは不敵に笑った。「《私について来なさい》って言ったはずよ」
未知へのカウントダウン
放課後、彼女たちは初めて「学校」という守られた場所の外にあるライブハウス、通称『デッドヒート』の門を叩いた。
そこは、タバコの匂いと使い古されたアンプの唸りが支配する、本物の戦場だった。
「高校生の文化祭レベルなら、帰ってくれ」
不機嫌そうなオーナーの前に、ナツミは一歩も引かずに立った。
「今の私たちが、神様にだって予測できない音を鳴らしたら……ここで歌わせてくれますか?」
その瞳に宿る《強くなる想い》に、オーナーは鼻で笑いながらも、ステージを指差した。
終わりなきプレリュード
チューニングの音が響く。
今度は、自分たちのことを誰も知らない観客の前だ。称賛も、期待もない。あるのは剥き出しの評価だけ。
ナツミはメンバーと視線を交わす。
もう「完璧」なんていらない。この4人が鳴らす不完全で、暴力的なまでに熱い音が、新しい地図になる。
《未来の果てまで 強くなる想いに 弱気な私は出番がない》
ドラムがスティックを振り下ろす。
新しい物語の、最初の一音が、夜の街へと駆け抜けていった。
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