🎀「新たな秦王朝・長安変奏曲」資料 ー 補足としてまとめていたものを古代中華の資料として一つにしました。

秦と前漢時代における大小便の処理

　秦と前漢時代（紀元前221年～紀元後8年頃）の標準的な土地持ち農家（農村部の自作農や小地主層）における大小便の処理は、現代の衛生基準から見て原始的で、主に農業利用と結びついた実用的な方法が主流だった。

トイレ施設の形態

基本的なピットトイレ（穴掘り式）

　農村部の標準的な農家では、屋外や家屋脇に簡単な穴を掘ったピット（便壕）を設け、そこでしゃがんで用を足すのが一般的だった。この穴は土や泥で囲われ、プライバシーを確保するための泥レンガや竹の囲いが施される場合もあったが、多くは簡素なものだった。

　水不足の北部地域（中原や蜀の一部）では、水を使わないドライ式が主流で、廃棄物を溜めておく形式だった。南部（長江以南）では、水辺近くの農家で木製のベンチや板に穴を開けた座式トイレが見らたが、農民層ではしゃがみ式が衛生的に優位とされていました。これらの施設は家族共有で、疫病防止の観点から定期的に土をかぶせて埋め立てるか、移動させる習慣があった。

豚小屋統合型（猪厠）

　特に蜀や北部農村で普及した方法で、トイレを豚小屋の上部に設置し、排泄物がトンネルや傾斜を通じて直接豚の餌場に落ちる仕組みであった。これは廃棄物の即時処理と家畜飼料の有効活用を兼ね、農家経済に寄与していた。秦漢時代から続く慣習で、現代の農村部でも一部残存しているが、衛生面では臭気や病原菌のリスクが高かった。

　水洗式トイレの原型は秦王国や前漢初期の都市部（例: 岳陽古城）で発見されており、水溜めとボウルを組み合わせ、召使が水を補充する形式だが、これは宮廷や貴族の「贅沢品」であり、農村部の農家では導入されていなかった。農民は水資源の制約から、こうした先進技術にアクセスできなかった。

廃棄物の処理と利用

肥料としての再利用（夜土）

　農村部の土地持ち農家では、大小便の廃棄物を「夜土」と呼び、作物肥料として積極的に活用していた。溜まった排泄物を田畑に運んで施肥する習慣が定着した。

　北部ではピットに貯蔵し、発酵させてから使用し、南部ではバケツ（馬桶）で集めて川で洗浄後、肥料として売買されるケースもあった。

　この循環は人口維持と農業生産性を支えたが、衛生面での問題（寄生虫や感染症の拡散）を引き起こす要因でもあった。

清掃と衛生管理

　用を足した後の清掃は、葉、枝、石、土塊、または竹製の棒（籌木、俗称「shit stick」）で行われた。秦漢時代では竹片を薄く削ったものを水で洗って再利用するものが登場し、吸水性や香りを加えた上質版は上層部用だが、農民は粗末なものを用いた。

　紙の使用は高価で後世（元・明・清）まで普及せず、農村では自然素材が主流であった。全体として、秦漢の農民は3日ごとの洗髪や5日ごとの入浴を習慣とし、政府が休日を提供するほどだったが、トイレ衛生は最小限で、臭気対策として灰や土を振りかける程度だった。