第4話 ドッペルゲンガー

安らぎを求めて眠ったはずなのに、

夢は逆に僕を揺さぶった。


夢の中で、彼は僕と同じ言葉を、

同じ間で、同じ温度で話していた。


それは模倣ではなかった。

重なりだった。


これは僕の言葉なのか。

それとも彼の言葉なのか。


判別しようとした瞬間、

境界は溶けて消えた。


眠ったはずなのに、

疲労だけが体に残った。


もう、彼を見るのはやめよう。


僕だけが、こんなに苦しまなければならない理由はない。

彼は僕を知らない。

だから、何も傷つかない。


その事実が、あまりにも残酷で、

同時に、滑稽だった。


理解できるはずなのに、

納得できない。


それが、さらに僕を追い詰めた。


見るのをやめたはずだった。


それなのに、

先に沈黙したのは彼のほうだった。


まるで、

僕に見られることを拒んでいるかのように。


そんなはずはない。

彼は僕を知らない。


そう言い聞かせても、

その沈黙は、確かに僕に向けられているように感じられた。


彼の沈黙は、

僕に恐怖を与えた。


なぜ拒否する。

なぜ、置いていく。


ひとりを好むはずの僕が、

孤独に耐えられなくなっていた。


本来、ひとりでいることは苦ではない。

むしろ、安心できる状態だった。


それなのに、

彼にだけは、置いていかれたくなかった。


彼の沈黙は、

僕の中にあった「僕」を、静かに壊していった。


現実の僕は、

それなりにうまくやっていると思っていた。


大きな問題はない。

困ったこともない。


それでいい。

それでいたかった。


誰かと深く関わることに、

得などない。

疲れるだけだ。


そうやって生きてきた。


それなのに、

彼とだけは、深く関わってみたいと思っている自分がいた。


その事実に、

強い吐き気を覚えた。


理解できないのは、

彼ではない。


壊れ始めているのは、

僕自身だった。

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