カクヨムコン11お題フェス短編 【「卵」】

白銀比(シルヴァ・レイシオン)

スカフィズム

 痒い…疼い…擽ゆい……


 もう、何日このままだろうか


 湿度だけを感じる

 後は…体中に蠢く感覚だけで、風が頬を撫でることもなく空気の流れすら感じない


 喉が乾く

 脳も渇く

 視えるものはなく、聞こえるのは軋み音と羽音だけ

 臭いはもう、とっくの昔に麻痺している


 ひりひり…チクチク…むず痒い……


 掻き毟ることも許されない

 手枷足枷

 寝返ることも起き上がることも出来ない

 首枷と閉ざされた棺


 私は、食物連鎖の最下層

 糞尿と化した、ただの肉塊、ただの肥料

 出来ればさっさと意識を失い、終わって欲しいと懇願する

 命が尽きるのか、意識が消えるのか

 我がタンパク質が分解されるのか

 群がる虫達に貪り尽くされるのか

 人の意識としては無様な競争が、ずっと繰り広げられている

 しかし、群がる虫達にとってはきっと楽園なんだろう

 彼らの喜びが、蠢きと共に痒さと痛みで伝わってくる


 この小さな世界に終わりはない

 少なくとも、私の意識の範囲内では

 棺の中で繰り返される、世代交代

 狭い空間に飛び交う蠅たち

 兄弟とまた繁殖し

 また次世代へと卵を産みつけ

 孵化した幼子がまた、私の内部を蠢き貪る


 痒い…疼い…擽ゆい……

 ひりひり…チクチク…むず痒い……


 死の訪れを、待ち焦がれる……

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