第4話 迎えた卒業式


卒業式の日。


校舎は騒がしくて、みんな未来の話をしていた。


「別々の大学でも平気だよね」


そう笑う友達の声が少しだけ怖かった。


桐生くんは東京の大学。

私は地元の短大。


「離れたら、終わるんじゃないか」


その不安を私は言えなかった。


駅のホームで

彼は私の沈黙に気づいた。


「また、一人で抱えてる?」


図星だった。


「……私、強くなった気がしない。

 いじめられてた頃の私が、

 まだここにいる」


胸を押さえながら言うと、

彼は少し考えてから言った。


「俺さ、

 君が“強くなる”のを待ってるんじゃない」


驚いて顔を上げる。


「弱いままでも選んでいい。

 俺と一緒にいる未来を」


電車の音にかき消されそうな中、

私は初めてはっきり言った。


「……それでも離れるのが怖い」


彼は微笑んだ。


「じゃあさ、離れても続けよう。

 依存じゃなくて選び続ける関係で」


その言葉は、

“守られる”よりも、ずっと心に残った。


それから数年後。


私は昔の自分と同じように

居場所を失いかけている子を

支援する仕事に就いた。


「私なんかが誰かの役に立てるのかな」


そう言った私に彼は言った。


「君はもう過去だけの人じゃない」


夜の電話越しでも、

その声は変わらず私を現実に繋いでくれた。


久しぶりに会った日、

彼は言った。


「ねえ、覚えてる?

 君が“生きててよかった”って言った日」


私は笑って頷いた。


「あの時はあなたがいたから」


「今は?」


少し考えて、私は答えた。


「……今は私が私を選んでる」


彼は嬉しそうに笑って抱きしめてくれた。


いじめられっ子だった私の人生は、

奇跡みたいに変わったわけじゃない。


でも、

誰かに選ばれたあとで

自分で未来を選べるようになった。


それが、

私にとっての本当の“救い”だった。

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