#2

ガキンチョの名前は「まなと」という。

家の表札に「佐久田」と書いてあるから、正式には「佐久田まなと」だろう。


毎日、ランドセルを背負って出入りしている。

昔は子供たちは「名札」をつけて歩いていたが、今は見当たらない。

『防犯対策』というらしい。


人間が自分に札をつけて歩いている光景は、いつ見ても不思議だったものだ。


まなとは、いつも一人だ。

子供というものは、何人かで「投網漁」のように広がって、大声を出しながら歩く生き物ではなかったか。


それなのに、まなとは常に下を向き、ランドセルの肩ベルトを握りしめて歩いているのだ。


「まなとの様子は、これ以上わからないな。

次は、怪我をした猫に会いに行こう。『事情調査』というやつだ。」


「……なるほど。

まなとは『盗んでなんてないのに』と言いながら、棒を振り回していたんだね。」


耳を怪我した鯖猫は、その時のことを思い出して、震えながら教えてくれた。

右前足に負傷した猫、左足を引きずっている猫……みんな口を揃えて、同じようなことを言っている。


「俺はぬすっとじゃない、まなとだ!」

「頑張ってお金を貯めて買ったんだ!」


そんなことを言っていたらしい。


(ふーん……なるほどね。)

自慢の髭が上下にピクピクと動く。


まなとは、自分で買ったものを誰かに「盗んだ」と言われている。

そして、泥棒呼ばわりされている鬱憤を、弱い猫たちで晴らしている、ということだろう。


これは、まなとの疑惑を晴らさない限り、解決しないだろう……。


吾輩は町中の猫たちに声をかけた。


「まなとの噂を流したやつを探して欲しい」と。


名探偵ホームズには優秀な助手のワトソンが必要だ。

(今回はワトソンたち…だな。)


彼らたちの活躍のおかげで、スムーズにいじめっ子の正体が掴めた。

同じ学校に通う「ひろき」というやつだ。どうやら、まなとのクラスメイトらしい。


(これ以上は、外からだとわからないか……。

仕方ない。敵の懐に入り込んで、内側から探るか……)


こうして吾輩は、いじめっ子といじめられっ子、双方の家猫になることにした。

スパイ大作戦だ。

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