After the Snow❄️

ciamelt

第1節-1章【雪が降る街】

俺が、特別好きでも嫌いでもないまま育ってきたこの街。

毎年雪が降り、春になれば静かに溶けていく。

季節の移り変わりなんて、ずっとそうだと思っていた。


でも、今年の冬だけは違う。

忘れられない思い出が詰まった季節になるなんて、

そのときの俺は、まだ知らなかった。


高校三年。

進路も「なんとなく」で決めたまま、秋から冬へと時間が流れていく。

雪虫を見かけるたびに、

ああ、もうすぐ雪が降るな、なんて考えていた。


今年も、たくさん積もるらしい。


雪が降り始めた夜の、学校帰り。

空から落ちてくる雪は、無垢で、きらきらと光っていた。

地面に触れるまでの一瞬だけ、

何にも染まっていないまま。


俺は、その雪が好きだった。


でも、積もってしまえば違う。

人の流れに踏み潰され、汚れ、形を失っていく。

そうなった雪は、正直、あまり好きじゃない。


それでも、俺が歩けば足跡が残る。

進んだ先に、道ができる。

まるで、考えもせずに選んだ進路みたいに。


帰り道、ふと通り過ぎた小さな公園。

そこで、俺は立ち止まった。


同じ年くらいだろうか。

少し幼く見える女の子が、雪を見上げていた。

目を輝かせて、無邪気に。


薄着で、風邪を引きそうなくらいだった。


……幽霊、じゃないよな?


そんなことを考えながら、公園には入らずに様子を見ていると、

彼女はぽつりと呟いた。


「ずっと、この時間が続いてほしいのにな……

 ずっと綺麗で、また来年も……再来年も」


直後、大きなくしゃみ。


さすがに見ていられなくなって、

家も近いことだし、俺は公園に入った。


「これ、使いなよ」


さっきまで巻いていた、まだ温もりの残るマフラーを差し出す。


「だめです! 貴方が寒くなっちゃいます。

 わたし、風邪引いてもいいんです!」


そんなことを言うから、

俺はそのまま、彼女の首にマフラーを巻いた。


「今日は本当に冷える。家に帰りなさい」


すると、彼女は少し目を潤ませた。


「……邪魔、でしたか? ごめんなさい」


慌てて、俺は言い返す。


「風邪引いたら雪も見れないだろ。

 手、もう冷えてるんだから、温めなさい」


「確かに……言われたら、寒くなってきたかも……くしゅん!」


俺はいわんこっちゃない、と心の中で呟く。


さっきまで雪と戯れていた彼女は、

本当に無垢で、妖精みたいだった。

色白の肌と、色素の薄そうな髪のせいかもしれない。


「帰るまで、ここにいるから。早く」


そう急かすと、彼女は慌てて言った。


「マフラー、借りてもいいですか?

 洗って、また返しに来ます!」


「見ず知らずでも、心配するもんなんだよ」


そう言って、

彼女の頭についた雪を払う。


「ありがとうございます!

 また来ます、この公園。雪が降る日に。

 マフラーも、ちゃんと持ってきます!」


そう言って、

彼女は雪の降り始めた道を小走りで去っていった。


……本当に、精霊みたいだ。


そう思いながら、俺は帰宅した。


俺の日常は、つまらない。

成績は中の下。

見た目も普通。

特技もない、どこにでもいる男だ。


そんな俺に、

こんな出会いがあるはずがない。


それでも――

このとき確かに、

自分でも説明できない感情が、胸に残っていた。


それに気づくのは、

まだ少し、先の話だ。


美しい乱反射する雪の結晶の中。

物語は動き始めた

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