第1章 突然の入れ替わり

朝の教室は、まだ眠気の残る空気と、ノートを広げる紙の音で満ちていた。

佐藤美咲は、いつもの席に座りながらぼんやりと窓の外を眺めていた。

今日は文化祭の準備が本格化する日。クラスの装飾や出し物の段取りを決めるため、みんな朝から慌ただしい。


「美咲、今日のポスター担当、よろしくね!」

親友の高橋華が元気に声をかけてくる。華は本当に明るくて、誰にでも笑顔を振りまく性格だ。そんな華に囲まれると、自然と私も笑顔になる。


「うん、任せて!」

つい元気に返事をしてしまう自分が、少し恥ずかしい。美咲は心の奥で、文化祭をきっかけに、少しはクラスの注目を集めたいと願っていた。


そんな時、教室の扉が開いた。

学年No.1のイケメン、橘悠真――クラスではほとんど話したこともない存在が、静かに入ってきた。


その瞬間、なぜか心臓がぎゅっと締め付けられる。

「なんで…こんなにドキドキするんだろう…」

美咲は自分の胸の高鳴りに気づき、思わず視線を逸らした。


文化祭の準備で、みんなが教室の机や椅子を移動させている最中、悠真はクラスの大きなポスターを持ち上げようとしていた。


「あっ……!」

美咲は思わず手を伸ばしてしまう。

「大丈夫ですか?」

二人の手が触れた瞬間、強い光が視界を覆った。


気がつくと、周りの景色が妙に高く、そして声が低い。

「え……?これ、私……?」


鏡を見た瞬間、声が出ない。

そこに映っていたのは、自分ではない、自分より背の高い男子――悠真の顔。


「な、なにこれ……!」

美咲はパニックになり、椅子に倒れ込む。心臓が爆発しそうに早鐘を打っていた。


その瞬間、教室の隅で美咲の声がする。

「……え、ちょ、ちょっと! 誰……?」

聞こえてきた声は、まぎれもなく自分の声。

「……え? 私……?」


そう、美咲と悠真の体は入れ替わっていたのだ。


最初は冗談かと思った。

しかし、悠真の体を動かす自分の手は確かに重く、力強い。美咲の小さな体に収まった悠真も、混乱と戸惑いで顔を青ざめている。


「落ち着け、美咲……いや、悠真……いや、私……!」

混乱のあまり、自分の名前さえうまく呼べない。


まずは冷静にならなければ、と心を落ち着ける。

美咲は鏡に映った自分の顔をじっと見つめた。悠真の顔。クールで整った顔立ち。誰もが振り向く、その顔だ。


そして、同時に気づいてしまう。

「……悠真の体、重い……!」

それは単純な物理的重さだけではなく、責任感や周囲の視線の重さも感じる。


一方、悠真は美咲の体をじっと見つめている。

「……こんなに細かったのか……」

小さな肩、小さな手、軽やかな体の動き。悠真の目に、美咲の生活の大変さが初めて映る。


その日、一日中、二人は互いの生活を体験することになる。

授業中、友達との会話、給食、トイレの行列――。

美咲として過ごす悠真は、女子の気遣いや繊細さに驚き、少しずつ心が柔らかくなる。

悠真として過ごす美咲は、男子としての視点での強さや孤独を理解し、少しだけ尊敬の気持ちが芽生える。


そして放課後、二人は廊下で偶然すれ違う。

「……ねえ、これ、どうするの?」

美咲は小さな声で尋ねる。


悠真も小さく息をつく。

「……まずは、互いの秘密を守るしかない」


その瞬間、二人の距離が、体の入れ替わりを超えて、少しだけ近づいた気がした。


「……なんか、変な感じだね」

美咲がつぶやくと、悠真も小さく笑った。

その笑顔に、美咲は心の奥で初めて胸がぎゅっとなるのを感じた。


文化祭まで、あと数日。

そして、二人の生活は、互いの体と心を通して、少しずつ変わっていく――。


この章で、入れ替わりのきっかけ・初めての戸惑い・互いの感情の芽生えを描きました。

次の章では、文化祭の準備や初めての学校生活でのハプニングを通して、胸キュンシーンや感情描写をさらに深めていきます。

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