夫に騙されて死んだ元女騎士、次こそ愛娘と共に幸せになります!

モハチ

第1話 元女騎士の最期

「ゲホゲホ」

乾いた咳を繰り返す音がする。豪華な部屋ではあるが暗い雰囲気ひっそりとした室内で、ある1人の女、ルイザ・クレアトンは生を終えようとしていた。

パサついた銀髪、キラキラ輝いていたエメラルドグリーンの瞳は濁り、手足は枯れ木のようにやせ細り、元々の活気がある姿は想像がつかない。


「お母様!お母様!うわあああん」

「お嬢様!原因がわかっていないためお嬢様に感染すると危険です!」

「シンシア、外に出ているんだ、子供は危ない。」

1人娘のシンシアが側に駆け寄ろうとするが、使用人と夫ヨハスに止められて室内に入られないように止められていた。ヨハスはシンシアを室外に出してドアを閉めた。

(シンシア・・ごめんね・・でも近づいたら何が感染するかわからないわ)

ルイザが罹患した病気の原因はいまだに究明ができておらず、感染する可能性も否定ができない。ルイザもシンシアに会いたいが、愛娘に感染はさせたくない。


室内には浅い呼吸を繰り返すルイザとマスクをつけた夫ヨハス、ルイザの専属メイドであるマリサの3名のみになった。そっと、マリサが近づいてきてルイザに声をかけた。

「ルイザ様、ありがとうございます。立派なクレアトン子爵邸と旦那様を私に下さって・・。おかげで私は命拾いをすることができました。」

ルイザは目を見張りマリサを見た。口元は見えないが、目は三日月形に笑っており、喜びを隠せないようだった。

「ルイザ、今まで苦しめてすまなかったな。だが、こうするしか方法がなかったんだ。許してくれ。」

ヨハスは言葉では謝罪の言葉を伝えてくるが、マリサと同様、目元は抑えきれない喜びにより歪んでいた。

「最後なので冥土の土産として教えてあげます。あなたの病気は感染症でも何でもありません。原因は毎日飲んでいた紅茶に入れていた毒薬です。私があなたの専属メイドとして勤めた3年間。あなたは紅茶を執務中に飲むのが好きでしたよね。」

(まさか・・・)

「紅茶に少しずつ遅効性の毒薬を混ぜていたんです。少しずつ体が動かなくなる毒薬を。好きでしたよね、私の入れた紅茶・・・」

マリサはにっこりと愉快そうな音色で話す。

「ルイザ、私とマリサは昔からの恋人だったんだよ。でも、君との政略結婚もあり、結ばれることは無かった。こんなに愛し合っている2人なのに。でも君と結婚したおかげでこの領地と、領主という地位を授かることができた。そこは本当に感謝しているよ。私は君のことを最初から愛していなかった。ただ君の爵位と領地が欲しかったんだ。」

ヨハスはマリサと手を繋ぎ、ルイザを見て言い放った。

「もう君を愛するフリをするのはやめてもいいだろう。死んでくれ、ルイザ。」

(そんな・・政略結婚ではあったけど・・だましていたなんて・・)


ルイザは最後の力を振り絞り、声にならない声で愛娘のことを訴えた

「・・シン・・シ・・ア・・」

「ん?シンシア様のことですか?あの子はメイドになってもらいます。私の娘のね。安心してください。簡単に殺したりはしないですから。ああ~でも後からあなたの後を追ってもらおうとは思ってますけどね!」

「とりあえずシンシアは領地経営を担ってもらうから。まあもう表舞台には出さないよ。そのためのこの3年間だったんだから。」

(私だけではなく、シンシアも殺すというの?シンシア・・!シンシア・・!!)

もとより目に入れても痛くないほど愛していたシンシアを殺すという発言に対し怒りがこみあげてくる。この3年間、いやそれ以前から騙されていたという現実、この2人を信頼し悪行に気づけなかった自分への後悔、憎たらしさ、怒り。様々な負の感情で涙がにじみ出てきた。悔しくてたまらなかった。叫んでこの2人に殴り掛かりたかったが体は全く動かなかった。


ルイザが瞳から静かに涙を流す姿を横目に見ながら、マリサは水桶に浸していたタオルをルイザの顔にかけた。

「「さようなら。私たちの救世主さん。」」

(シンシア!シンシア・・!!許さない・・・!許さない・・神様どうかいるならば、そして悪魔たちには天誅を・・・!!)

元々浅かった呼吸にとどめを刺され、暗くなっていく視界の中ルイザの意識はなくなっていった。

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