第6話 あの、なんで曇ってるんですか
BBB――ブラッド・バレッド・ブリージアの物語は、主人公の犠牲によって幕を閉じる。
俺が転生した世界は限りなくBBBの世界と同じでありながら、肝心の主人公が不在だった。
俺は原作主人公がやるべきだった事を完遂した。
制圧したテセウス01で月の獣に神風特攻を決めて死んだ……はずなのに。
P、P、P、P、P、P。
体中に色んな計器やらコードやらを繋げられベッドに寝転んでいる。
身動き1つ取れないが……目や耳は無事。
生き残ってもうてんのよ。
あの状況で生き残れる訳ねえだろ、生き残っとるやろがい。
……意味が分からない状況だ。
そして、何より意味が分からないのは。
「もう泣かないって、決めたのに……お願い、起きて……あたしはあなたに謝らないと……裏切りものって言ってごめんなさいって。許されないのはわかってるけど、それでも……」
俺を見下ろしながら泣き続ける黒髪ロングのクール美人。
「センセイ? いつ起きてもいいんだよ。私はね、貴方がここで起きるのをずっとずっと待ってるんだから。ねえ、先生、私ね、先生が美味しいって言ってくれた唐揚げ、毎日作ってるんだよ? でもね、先生以外には誰にも食べさせてないんだあ。あの時食べたくなかったなんて言わせてごめんね? でも、もう全部わかってるからね」
俺の感触のない手をずっと握ったまま痛々しいほど明るい表情で喋り続けるピンク髪ポニテの正統派美人。
「相棒、あの時は君と最後までいる事が出来なかった。……もう二度と君を独りにはさせない。あの時、一緒に死ねなくてごめん、あの時、君を信じる事が出来なくてごめん。誓うよ、次死ぬ時は一緒だよって」
俺のベッドに腰かけたまま澱んだ瞳でぶつぶつと言葉を垂れ流す白髪ウルフカット美人。
なんだ……この曇りまくっている美人3人組は。
……いや、白々しいわ。我ながら。
なんだ、じゃねえのよ、お前は。
話してる内容と見た目で察せ、察せ。
この美人達は、夜行さん、鳳翔院さん、水無瀬さん。
3人共、俺の担当魔法少女だ。
中学生の時の面影をわずかに残して、随分綺麗になっている。
目を覚ますまでにかなり時間が経ってしまってるパターンの奴か?
で、なんで……曇ってるんですか?
これはね、本当にわかんないよ。
様々な事情や背景を持つ魔法少女達を担当官としてサポートし続け、最終シナリオまでたどり着き、彼女達の唯一の生存ルートを選び取った。
原作主人公唯一のやらかしである、かっこよすぎる自己犠牲エンド。
情緒を狂わされた魔法少女達は戦後の世界で全員曇って病みまくる。
俺はあの曇らせ病み闇個別EDが嫌いだった。
だが、これも対策したハズだ。
アドリブによって彼女達の好感度は地の底に落ちているはず。
彼女達に見せた姿は、魔法少女を利用して功名心を満たそうとしたカスそのもの。
正確には管理委員会のクソカス共をモチーフにした完璧なアドリブだった。
原作主人公のような英雄ではなく、最後の最期に本性を見せたカスとして俺は死んだんだ。
故に、この世界ではBBBのような魔法少女曇らせパートは存在しないハズ。
なのに――。
「あたしは罪人だから。裏切り者って言ってごめんなさい、理解してあげられなくてごめんなさい。あなたの事をずっと待っています」
「センセイが起きるまで、私がずっとずっと守ってあげるからね、この世の全てから」
「相棒、相棒、相棒。また笑ってほしい。僕の無茶を叱ってほしい。相棒、君とまた話がしたいんだ。僕と君の冒険の話を……」
「なんで原作通り《曇らせEND》なんだよ」
あ、声出せた。
「「「……………ぁ」」」
3人と目が合った。
美人が固まって、目を零れるくらい大きく見開いて。
人って泣きすぎて気絶する事があるんだな。
3人とも泣き喚いた後に、眠るように気絶してしまった。
ナースコールは、どこだ……!!
◇◇◇◇
意識を取り戻してから数日が経過。
だいぶ、自分の状況がつかめてきた。
今は、西暦2038年。
カグヤヒメ作戦から3年が経っているらしい。
俺は3年間眠り続けていた、との事だ。
月の獣の消滅が確認されたのち、作戦宙域に漂っていたテセウス01の残骸から奇跡的に救出されたらしい。
幸いな事に体の欠損はない。
後遺症で一切体が動かない事以外は、体に異常はないとの事だ。
……な訳ねえだろ。
俺は月の獣に特攻を決めて爆発四散したはず。
最強の魔獣のコアに、人類の叡智で完成した魔力炉の塊をぶつけたんだ。
核兵器以上の熱量で、下手したら細胞1つ残らず消滅しているはず。
肉体なんか残る訳がない。
……厄ネタ満載のBBBの事だ。
俺の奇跡の生還には確実にクソみたいなネタがあるに違いない。
いや、今は自分の事より考えるべきことがある。
――魔法少女達だ。
眼を覚ましてからというもの、担当魔法少女達が順番で看病してくれている。
ありがたいのだが……皆、ちょっと、いや、かなり様子がおかしい。
今日は夜行さんが当番らしい。
看病と言っても栄養補給などは全て点滴で賄っている。
時間を使わせるのも申し訳ないので、断ろうとしたのだが……。
「ああ、やっぱり――そうよね、あたしに、資格はないわ」
「え? あの夜行さん?」
黒ブレザー黒タイツの黒髪クール超美人。成長して、高校生になった夜行さんの様子がとびきりおかしい。
「分かってるの……今更どの面下げて、ここにいるのかって話しよね。一番大事な時にあなたの事を信じられなかったんだもの。そうよね、あたしの顔なんて、見たくも、ない、わよねっ、邪魔、よね、消えた方がいい、わよね」
「え、え、え」
「でも、お願い、どうか、どうか……傍にいさせて……相応しくないのは、分かってる……! 貴方の事を理解もせずに、裏切り者呼ばわりしたっ……こんな愚かな女は貴方に、相応しくないってのはわかってる、けれど……それでも、あたしは――」
「あ、わ、分かった、分かった。落ち着いてくれ、ほら、今、俺動けないから」
俺を、正確には、計器に繋がれてようやく生き永らえている俺を見て、夜行さんの瞳孔が大きく開かれた。
「ぁ――あああ、ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
もうめんどいってェ!!!!
だから曇らせ苦手なんだってェ!!
泣く女の子可哀想で見てらんないって!!
なんとか夜行さんを落ち着かせ、その日を過ごした。
寝てる間も、ずっと視線を感じていたし、なんかぼそぼそと心地いいウィスパーボイスが聞こえていた気もする。
なんか妙に甘い香りに包まれていた気も…。
だが、無事、一晩を過ごした。
「おはよう……よく眠っていたわね……良かったわ。今日も目を覚ましてくれて」
一晩中、ベッドの傍の椅子に座っていたらしい夜行さんが柔らかく微笑む。
目が赤いし、クマというか、顔色も悪い気が……
まさか、一晩中その椅子に座っていたのか?
俺が聞いても夜行さんは、聖母のような微笑みで俺を見つめるだけ。
おい、こんな顔する子じゃなかったって。
もっとつんつんの黒猫ちゃんみたいな子だったって。
クソ、こんな不健全な曇らせEND冗談じゃねえ。
なんだよ、BBB,どうあってもこの子達を曇らせたいのかよ。ふざけやがって。
曇らせ闇病み個別ルートなんて俺は絶対認めねえからな……。
~あとがき~
御覧頂きありがとうございます。
次回は夜行さん視点で見た主人公を語る回です。
謎や伏線は徐々に回収していくので引き続きお楽しみ下さい。
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