スケッチブック
植田伊織
『真実の白は売っていない』
「あの子は俺が守ってやらなきゃ駄目なんだ」
慎二はそう言って、あの子の肩を抱いて去った。
ダッフルコート越しでもわかる、華奢な体躯。硝子細工みたいに繊細で、美しい顔立ちのあの子を彩る長い睫毛に、雪の結晶がふわりと落ちた。
「先輩……ごめんなさい、本当に、本当に……」
「やめろ、全ては俺が悪い。責めるなら俺を責めてくれ」
二人の間で完結している物語に今更入れないでいる私は、間を取り持つ言葉を言いかけて……辞めた。
それは自分を守る為でもあり、私の言葉なんて彼らにはもう届かないのを知っていたから。
誰にも迷惑をかけまい、自分の足で立つ事を目標に生きていた。それが可愛くないと映ったのなら、慎二はそういう男なのだろう。わかっている。わかっているけれど……。
ありのままの自分でいるだけで、誰かにとっての異分子になってしまう事を初めて知った。
私だけが努力したとしても、相手が物語から降板してしまえば、何も出来ないと言う、残酷な真実も知ったと思う。
別れ際、振り返ったあの子は両目に涙をいっぱいためて、深々と私に頭を下げた。
いつまでも頭をあげない彼女を、慎二が庇おうとして、それを振り払う。
――ああ、いい子。いっその事、悪女だったらよかったのに――
ビスクドールみたいな綺麗な瞳の、涙袋にきらりと光った、白い輝き。あれは、雪の結晶だったんだろうか、それとも、ロムの新作グリッター?
あれから私は、白いグリッターばかり集めている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます