名前が戻る場所 1話 声のない朝

@Laliga

第1話 声のない朝


目覚ましが鳴る前に、目が覚めた。

眠れなかったわけではない。ただ、夢を見なくなって久しい。


カーテンの隙間から差し込む光は、いつも同じ色をしている。

昨日と変わらない朝。

変わらない、ということは安心でもあり、少しだけ怖くもあった。


「行ってきます」


誰もいない部屋でそう言うのが、いつの間にか習慣になっていた。

返事が返ってこないことも、もう気にならない。


電車に乗り、会社に着き、仕事をする。

名前を呼ばれない一日が、また一つ増える。


「この資料、あとで確認しといて」

「了解です」


それで終わりだ。

悪意があるわけじゃない。

ただ、誰も私に興味がないだけ。


康――

名前は、書類の端やメールの署名には残っているが、

声として空気を震わせることは、ほとんどなかった。

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