匿名R【GL/シスターフッド】
柊 奏汰
匿名R-1
終電ギリギリの時間に残業が終わり、いつもの電車のいつもの席に沈み込むように体を預ける。社会人になってまだ一年目だというのに、定時で帰宅できたことなんて数えるくらいしかない。私ー須藤梨花(すどうりか)は自分が選んでしまった会社のあまりのブラック具合に溜息をつきながら、スマホで動画投稿サイトをチェックする。
「…今日もやってる」
私が目を留めたのは”Yuki”という配信者の生配信。彼女は毎日22時30分から1時間、雑談に時々歌を交えながらマイペースに進める枠を開いている。私は毎日この終電の中でYukiの配信を聴きながら自宅に向かうのが日課だ。
『あ、匿名Rさんこんばんはぁ!今日も来てくれてありがとうございます~!今日もお仕事から帰る途中?』
私が「こんばんは」と書き込めば、Yukiは嬉しそうにコメントを読み上げ私に挨拶を返した。匿名Rというのは私のハンドルネームで、特にこだわりもないから適当にイニシャルをつけただけの名前だ。でも毎日挨拶だけはするようにしていると、Yukiは私のことを常連として認識してくれるようになったのだった。
「今終電の中です」と書き込めば、
『そうなんだ、お疲れ様!匿名Rさんいつも話振ってくれるから嬉しいんだよね~!今日もゆっくりしてってね!』
と明るい声が返ってきた。私はその一言だけで”今日一日頑張って良かった”という気になる。どれだけ疲れていても、仕事がしんどかったとしても、その日の終電でYukiの声を聞いてコメントを書き込み話をすれば、また明日も頑張ろうと思うことができるのだ。Yukiは顔出し配信者ではあるが常にマスク姿なので、私は本当の顔を認識しているわけではない。でも肩下までの黒髪ロングで素朴な服装と、穏やかでほのぼのとした語り口、そして心に突き刺さるような芯の通った真っ直ぐな歌声が、私の心を捉えて離さないのだった。
―――そして今、私の中でとある疑念が心の中で大きくなりつつあった。
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