解明square

square君

第1話ー柊凪咲という女


「葛飾君!課題写させてほしい!」


 いつもなら何も感じないはずの言葉だった。

 だが、その日の俺は違った。たった一言なのに、誰かに心臓を掴まれたような感覚があった。


 これは昨日の出来事だ。


 放課後の教室、俺は仲のいい佐々木と他愛のない話をしていた。内容は、まあ世間一般の男子高校生なら必ず通る恋バナだ。


「いやー柊なー。あいつ可愛いんだけどさ、ちょっとメンヘラで自己中じゃね?」


「そうか? 俺は好きだけどな」


「お前、もしかしてメンヘラ好き?」


「あー、笑笑。これ誰にも言ってなかったけどさ、俺ヤンデレとか好きなんよな」


「あーまあ分からんでもないな笑」


「死ぬならヤンデレに刺し殺されたいんだよ、笑」

「あとさなんかあいつ俺にべったりな気がすんだよな。」


 その時は、まだ知らなかった。

 その言葉を、誰かがちゃんと聞いていたことを。


「ごめんけどそこは共感できない」


 佐々木はそう言って笑い、カバンを持ち上げた。


「あ、俺バイトだわ。じゃあな」


「おう。バイバイ」


 佐々木が教室を出て数分後、俺も席を立った。


 理由は分からない。ただ、胸の奥に得体の知れない不安と、言葉にできない違和感が残っていた。


 とはいえ、俺にもバイトがある。考えるのをやめて、そのまま店へ向かった。


「ちわーす」


「おう、お疲れ。今日も頑張れよ」


 バイト先の店長は、愛想がよくて誰からも好かれる、いわゆるゆるキャラ的存在だ。

 時給は最低賃金をだいぶ下回っているが。


 ちなみに、ここにも俺の気になる人物がいる。


 平井指音という女だ。


 前髪はぱっつんで重め。歩き方は内股。

 地雷系要素てんこ盛りの女である。


 元々、俺は地雷系が嫌いだった。

 だが、彼女に出会ってから、その価値観は一変した。


 店長に頼んで、わざわざシフトを合わせてもらうほどには。

 

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