初めての異世界は優しい人ばかりで恐怖でした

またたびやま銀猫

第1話

 気がつくと、真っ白の世界にいた。


 私はキョロキョロと見周す。


 上も下も右も左も、もちろん斜めも真っ白で、上下の感覚すら危うくなりそうだ。立っているから、足がついているところが地面ということでいいのだろうけど。


「どこなんだろう……」

 つぶやいた直後だった。


「ようこそ」

 声が響いた。


 気がつくと、男性が目の前に立っていた。若くも見えるし、年老いても見える。不思議な人だった。


 長い髪は真っ白で、瞳は髪に隠れて見えなかった。木の杖を持ったさまは、よくあるイメージの神様みたいだった。ヒゲは生えてなかったけど。


「君は選ばれた」

 彼はそう言った。


 どういうことだろう。

 私は返事もせずに彼を見た。


「君は事故で死んだ。だが、善良な君は第二の世界で生きる資格を得た」


 ああ、そうだ。

 私は普通に生きて普通に生活していた。


 横断歩道を渡っていたら、信号を無視した暴走車にはねられたんだった。

 悲しいとかショックとか、そういう感情は沸かなかった。実感がなかったから。


「転生するにあたり、なにか能力を授けることになっている。君はなんの能力がほしい?」


「転生……能力……」

 私はつぶやく。


 そういう物語を読んだことはあるが、自分がそんな立場になるなんて思いもしなかった。物語では、たいていそんな能力があるせいでトラブルに巻き込まれるパターンばかりだったなあ、と思い出す。


「善良な者たちだけを集めているから、変なことにはならないと思うよ」

 神は私の内心を察したように説明した。


「本当に善良な人たちだけなんだったら、私はなにも力はいりません」

「へえ?」

 神は面白そうに私を見た。口元が笑っている。


「平凡に、普通に生きたいですから」


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