第18話 特異点への行軍『マーチ・オブ・シンギュラリティ』
『罪人』として連行されるか、この場で抗戦し逆賊となるか。
宿舎を包囲する帝国の使者たちは、武装解除を叫びながらも、その実、一歩も踏み込めずにいた。
「ガラム団長、不可解だ。陛下の書状に処罰が明記されているなら、なぜ即座に執行しない? 演算『シミュレーション』上の整合性が取れない」
「ハッ、ビビってんじゃねえのか?
俺たち『青の魔術回路』は、花はないが前衛としては優秀だからな」
ガラムの豪快な笑いにため息を吐き、リナリアが隣で飴を転がしながら補足する。
「レフ、第十三独立騎士団って、実はただの軍隊じゃないの。
私たちは『盾』になる代わりに自治を認められた、一つの小さな国みたいなものなの。
だから、迂闊に手を出すと面倒なことになるんだよ」
「……なるほど。僕たちが盾としての契約『関数』を維持する限り、帝国は家族の庇護という変数を動かせないわけか。
僕がここへ追放された理由の一端が、ようやく計算できた」
レフィアスは納得を得ると、一人、包囲網の前に進み出た。
数多の魔導銃が彼を狙うが、その瞳は微動だにしない。
「僕は罪を認めていない。
だが、無益なエネルギー消費『戦闘』も好まない。
そちらの歪曲された事実を修正するため、弁明の機会を頂きたい」
「フン! アルカディア家の面汚しめ! 重ねて恥を晒すつもりか!」
使者の罵倒には、青の回路を持つ者への根深い侮蔑が混じっていた。
感情論というノイズで満ちた相手に対し、レフィアスは静かに、かつてアルカディア家から与えられた儀礼用の剣を引き抜いた。
「皇帝陛下への謁見を所望する。
……それが叶わないのであれば、僕たちの価値――すなわち、この『物理法則の具現』を武勇として示すまでだ」
レフィアスの言葉に共鳴し、青碧騎士団が武器を構える。
空気が張り詰め、臨界点を超えようとしたその時――。
銀の重装騎兵を割って、一騎の馬が静かに滑り込んできた。
「そこまでだ。……見事な戦意、そして冷徹な分析だ」
現れたのは、落ち着いた金髪の騎士だった。
纏うマントには、皇帝直属を示す双頭の鷲の紋章。
「我が名はアルレオス・クラヴィス。
皇帝陛下の名により、事の真偽を観測しに来た。
……レフィアス・アルカディア。君がこの騎士団の代表か?」
「アルカディアの名は捨てた。今の僕はレフィアス・オブザーバー。
……質問の答えとしては、肯定だ」
馬上から見下ろすアルレオスは、その名を聞いて満足げに口角を上げた。
「『オブザーバー(観測者)』か。面白い。
……レフィアス殿、君の求めた皇帝陛下への謁見、私が責任を持って仲介しよう。
代表者三名を連れ、三日以内に王城へ来い。
……道中、我が名を出して、なお反発する者がいれば、斬り捨てて構わない」
「……三日、か。城へ行くには随分時間が余りすぎる、だが準備には丁度いい」
レフィアスは剣を納め、背後のガラムとリナリアを見た。
三名の代表者。
それは、レフィアスが理不尽な世界をデバッグするための、心強い味方であった。
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