第10話 サキュバスに精気を吸い尽くされて死

 意思にもやがかかったように、頭がぼうっとする。 


 気がつくと、見覚えのない部屋に立っていた。

 冒険者用の宿かと思ったが違う。


 独特な雰囲気がある。

 薄暗い部屋だが、ピンク色の魔法照明が優しく光っている。


 いつの間にここに来たのだろう?


「意識がはっきりしてきましたか?」


 夜道で会った銀髪の少女——リリも同じ部屋にいた。


「俺はスキルか何かで精神攻撃をされて……」


 記憶が曖昧だ。

 裏路地で倒れた冒険者を介抱かいほうして、それからリリが現れた。

 その後のことがよく思い出せない。


「あなたは疲れていたようですので、お部屋で休んでいただいただけです」


 リリが笑顔で話してくる。

 美しく可愛かったけれど、どこか普通の人間とは違う魅力があった。


「そうだったのか……ありがとう」


 俺は安堵して礼を言った。


 いや、違うだろ!


 なぜ俺はこんなにもリリと親しげなんだ!?

 初対面の相手というか、状況からして怪しすぎる相手じゃないか。


「レイジ様……」


 リリが俺の名前を呼ぶ。

 くっそ、知らないやつに名前を教えたのか俺は!


「だ、誰だそれ。俺はマイケルだ」


「ふふ、レイジ様、嘘をつこうとしても無駄ですよ」


 慌てて偽名を言ったが、今の状態では容易く自白させられるのかもしれない。


「温かい方ですね。とても……魅力的です」


 リリが俺に近づいてくる。

 彼女の瞳は美しく、見つめているだけで心が落ち着いてくる。


 可愛い女の子だな。……だから、絶対やばいって!


 思考は危機を告げているのに視線を外すことができない。

 リリが俺の手を取る。


「リリ……」


 俺はリリに手を引かれるままに彼女の頬に手をやった。

 驚くほどきめ細かく、温かい。

 リリが小さく息を漏らす。


「ああ……」


 その声が妙に艶っぽい。

 俺は自分の脈が強くなっていると分かった。


「レイジ様……私と……」


 リリの誘いに、理性が消えていく。

 可憐さ、甘い香り、そして何よりも彼女から発せられる不思議な魅力。

 俺は完全に魅了されていた。


 リリに手を繋がれて、大きめのベッドへと連れられていく。

 身体が二足歩行しかできないロボットのようになり、抵抗できない。



 ◇ ◇ ◇


 操られるように、俺はベッドの脇で服を脱いでいた。

 というか操られているのだけれど。

 俺はパンツ一丁いっちょうでベッドに横たわる。


「はあ、はあ……」


 リリが服を脱ぐ衣擦れの音がする。

 やばい、これから良く無いことが起こる。


 いや、いいことが起きる!?


 危機と美少女のよくばりセットに、もう思考回路がショート寸前だ。

 下着姿になったリリがベッドに乗ってくる。


「くっ、これからどうするつもりだ……!」


「ふふ、そう怖がらないでください」


 リリが俺の顔を覗き込み、微笑んでいる。

 俺と照明の間にリリが入る形で影が落ちる。

 しかし、リリの瞳に浮かぶ魔性の光がはっきりとわかる。


「い、いや、その……」


 なんでこんなことに?

 ふと気がつくと。リリの頭上に、小さな角のようなものが生えていた。

 リリの背中には蝙蝠のような翼も……。


「人間じゃなくて、人型の……?」


 モンスターだ。

 リリがくすりと笑った。


「お察しの通り、夢魔……サキュバスです」


 夢魔——サキュバスは、人間の精気を吸い取って生きる魔族だ。

 そして、同じベッドにいる。

 動物園でライオンの檻にいるのも同然の状況だ。


「まずい……!」


 俺は逃げようとしたが、魅了の力にあらがえるわけもない。


「ふふ、もう遅いですよ」


 リリが俺に覆いかぶさる。その瞳が赤くまたたき始めた。


「ちょっとまってくれ……」


 俺は自分の腕を何とか動かし、リリをどかそうとした。

 しかし下から両方の胸を鷲掴みにしてしまう。


 うおっ、柔らけっ!!

 夢魔だけあってサイズも感触もたまらない。


「あら、そんなに揉んで……いかがでしょうか」


「ゆ、指が勝手に……動かされる!」


 リリがしっかりと抑えるように俺の腰にまたがってくる。

 よりいっそうリリから逃げられない体勢になった。

 心地よい重量感に包まれ、腰が熱くなって麻痺していく。


 触れられただけでやばいサキュバス相手にこの状況。

 下半身が溶けだしてしまったように錯覚する。


「リリ……これ、すっげ……やばい」


 俺は水揚げされた魚のように、言葉も出なくなってしまう。


「これまでずっと、遠隔で吸収していたもので……もう我慢できません、スキルで直接吸いますっ!」


 遠隔って……。

 冒険者が道でぶっ倒れてたやつ、やっぱり生命力を吸ってたのか。


「ちょ、ちょっと待て!」

 軽く吸われただけで昏倒こんとうするのに、俺からは直接吸うって!?


 しかも俺は異世界転生の前も後もピュアなんだぞ!

 夢魔にスキルなんか使われたら、即死ぬだろ!


「『吸精絶頂昇天♡』」


 リリがスキルを発動する。


 ウギャー!


 俺の体から、生命力そのものが吸い出されていく感覚があった。

 しかし同時に、とてつもない快楽が俺の身体を貫いてくる!


 肉体の中身がどろどろになり、リリと接触しているところからびゅるびゅると絞り出されていくようだ。


 これく! あの世に!


「やめてくれ……!」


 俺の声を聞いたリリは申し訳なさそうな表情を浮かべる。

 しかしスキルを止めることはなかった。


「ごめんなさい……私にも事情があるんです」


 事情って何だよ!?

 それもっと早く聞けたら相談くらい聞くからさあ!


「死なないくらいで止めますから」


 俺は急速に老け込んでいっているのを自覚する。

 この状況になった男が、白髪の老人のようになるのを漫画で見たことがある。

 体の奥底から、生命力がどんどん吸い取られていく。


 酸欠になったように何も考えられなくなる。

 そして、気持ちよすぎる。


 うぐ……もう……だめだ……。


「ふう、ごちそうさまでした」


 申し訳なさそうにしていた割に、リリの声には歓喜が混ざっていた。



 < 新しいスキルを獲得しました >

『魅了耐性(Bランクスキル)』

『交戦中(意味深)の精力アップ(Bランクスキル)』

『夜王の魔弾(Cランクスキル・夢魔にのみ有効)』

『夜王の絶技レベル4(Cランクスキル)』



 ◇ ◇ ◇


 俺は部屋の入り口にリスポーンしていた。

 めちゃくちゃ気持ちよかった……じゃなくて!

 思考はクリアになっているし、身体も健康そのものだ。


 それに、変なスキルをいくつか獲得した気がする……。


『魅了耐性』はまだ分かる。

 夢魔にスキルを使われて殺されたせいだ。


 他は使い方をさぐらないといけないスキルだ。


『交戦中(意味深)の精力アップ(Bランクスキル)』


 戦闘中にステータスが上がるように、何かが増えるのかもしれない。

 まあ……アレだよな。夢魔に生命力を吸われたのだから。


『夜王の魔弾(Cランクスキル・夢魔にのみ有効)』


 もう1つは限定的な効果のスキルだ。

 特定のモンスターに殺された時に獲得するスキルなのかも。

 『夜王の絶技』スキルの方は……交戦中(意味深)で使えってことか。



 ともかく。


 俺は1発昇天させられたことで、されるがままではなくなった。

 事情があるってのが本当か、リリに聞いてみよう。

 こっちは殺されているのだから、それくらいの権利はあるはずだ。

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