前日譚 その1

俺は、『君』を殺さなくてはならない。

この街の平穏を、君が飲み込む前に。仲間を殺してしまう前に。

自分の“責任”が、ここまで押し上げたのだとしても。

それしか、ないんだろうか……


――

自分の心臓が止まる感覚、なんて知りたくなかった。


誰かの声がした。

「佐藤祥也、お前は死んだ」


「まあ、良かったんじゃない? この僕がわざわざ殺してあげたんだ。喜べよ」

俺は聞いた。

「……今、殺したって言いました?」

「うん。言ったし、やった。僕が君を殺した」

彼は無表情でその言葉を吐いた。


俺は顔をしかめた。

「まず、おまえは誰なんだ」

「君は、僕が誰だと思う?」

彼は湿った笑みを浮かべていた。


――ふざけてるのか?

俺は音が聞こえそうなくらい、強く歯ぎしりした。

「いや、バカにはしてないよ?」

「むしろ逆だ。大事なんだ、君の“認識”が」


神様、と呼ぶしかないんだろうか。

でも、こんな物が神であってほしくない。無邪気すぎて邪悪さすらある。


ただ、俺はそんな神様に『覚え』があった。

――混沌の王、アウトライアー。


あ。


「いいね」

「それでいい」

喜びを噛み締めながら、彼は言った。


「そう、混沌ね! いい解釈だ!」

ぐにゃり、と彼が作り変わる。姿かたちが、出来ていく。

彼の、アウトライアーとしての『姿』が。


コツコツ、と足音がする。

靴が地面を叩く音だけが先に来る。足なんて、なかったはずなのに。


空間が歪み、人間の輪郭が、勝手に出来上がっていく。

石鹸みたいな香りがする。――気持ちが、悪い。


声が肉を呼ぶ。臓器が骨を這う。

彼の体温が伝わってくる。触ってなんて、いないのに。


「さあさ、アウトライアー様のご登場だ!」

彼は誇らしげに両手を上げた。


ワー!!!

下劣なショーの喝采が聞こえた。

「拍手は?」

彼はギロリと睨みつけてきた。


「で。君はやっちゃったねぇ」

俺が“アウトライアー”だと決めた。――ただ、それだけで。

「僕はアウトライアーになったわけだ」


――言葉が出ない。

もう、取り返しはつかないんだ。


重々しく覚悟を決め、言葉を吐いた。

「殺して――ください」

「無理。だめ。殺させない。ずっと」


何かを猛烈に吐き出したくなる。

これはなんの間違いなんだ。冗談だと、言ってくれ。

ああ、だめだ。

罪悪感に耐えきれない。精神が崩壊してしまう。


「それでもいいさ」

「もし壊れても僕が直してあげるから!」


視界がひしゃげた。

やめてくれ。もう、限界なんだ。


彼は両手を合わせ、打ち鳴らした。

「さあ! ゲームを始めようか!」


人生が、始められた。

アウトライアーの――他人の手によって。


彼は淡々と言葉を吐き捨てた。

「飽きてきたんで、一気に行きまーす」

その1

「君が転生するのは異世界ではなく現代社会だ。そして魔力がある。だから魔法が使える」

その2

「君の意思で僕と会話ができる」

その3

「君の言葉だけ言語統一した。伝わるし、伝えられる」

その4

「トラウマを糸で保護した。いずれほどけるだろう」


その5

「僕がいるんだから、他もいる」

「僕、フィラメント、メルトダウン、コラプス。すべてが世界を壊しにかかる」


「せいぜい、世界を救い給え」

――“君が作った“僕の世界を。


――プチュン。

気づくと俺は路上で倒れていた。

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