つながり
あらごし
悪魔の人形
私は人間だ。
――――――――――――――――――――――
「おはよう!今日もとってもかわいいわね!」
勿体無いお言葉。お嬢様こそ本日もとても美しいです。
「今日は昨日の続きをやるわよ!ちゃんと覚えてるかしら?」
はい。隣国の王子がお嬢様に告白して、その王子にお嬢様が平手打ちを放った所でしたね。
痛快な一撃でありました。
「今日は王子と街一番のイケメンが、私を取り合うシーンよ!」
ええ、任せてください。ただ……演技とはいえお嬢様をそのような訳のわからない輩に近づけてしまうことが、心苦しいです。
「ほら早く!それじゃあいくわよ!よーい……」
その瞬間、扉が耳を突くような嫌な音を立てて開く。
「……また人形で遊んでいるの?」
「あ、お、お母様……おはようございます。それと……ごめんなさい」
「はぁ。ほんと役に立たないわね、貴方」
「ご、ごめんなさい」
「まあいいわ。じゃあ下にお金置いておくから……ご飯が食べたくなったらそれで食べておきなさい。私達は3日後に帰ってくから……めんどくさいから死なないでちょうだいよ」
「は、はい!」
そう言って悪魔はつんざく音を鳴らしながら扉を閉じて、どこかへと去っていった。
「……えっと、それじゃあ気を取り直してやるわよ!」
はい、お嬢様。私に任せてください。お嬢様が大切にしてくださっている人形の私が完璧に演じましょう。
――――――――――――――――――――――
私が意識を持ったのはいつだっただろう。
元々はこの家の前の家主の持ち物だった私は、その方が亡くなられてから引っ越してきたお嬢様の家族にそのまま引き取られた。
お嬢様は、両親からあまりいい扱いを受けていない。男の子が欲しかったのに、女の子が生まれて疎まれているらしい。
そんなお嬢様だが、とても明るく可憐だ。
大きな瞳は透き通るように綺麗で、私と同じピンクの髪は清流のように滑らかで綺麗。
肌は白魚のように白く、歯はとても真っ直ぐに整っている。素直なお嬢様にぴったりの歯だ。
古くなった私よりも、よっぽどお嬢様のほうが人形のように美しい。
そんなお嬢様に大切に、綺麗にされていると……いつの間にか私は自我を持っていた。
きっとこの自我はお嬢様を見守るために出来たのだろう。
お嬢様、いつまでもおそばにいさせてください。
――――――――――――――――――――――
…………6日が経った。
今にも空腹で倒れそうになっているお嬢様と傍に居ることしかできない無力な私の耳に、階段を登る嫌な音が聞こえてきた。
勢いよく開かれた扉の先には、悪魔が2匹。
「ちょうど良かった。まだくたばってなかったな」
「お、お父様。お母様。……申し訳ございません」
「来い、お前が初めて役に立つ時だ」
「まさかこんなゴミを買い取ってくれる人がいるなんてね!1ヶ月は遊んで暮らせるわよ!」
…………は? 買い取る?
今この悪魔共はなんで言った?
「お、お母様?」
「あんたを高額で買い取ってくれるって物好きが居たのよ!ゴミを処分してお金がもらえるなんて最高だわ!」
「い、嫌……」
「うるさい、早く着いてこい」
「嫌ぁ!た、助けてぇ!」
泣いているお嬢様を悪魔たちは引っ張って連れ去っていく。
「お願い!嫌だ!助けて!!お人形さん!」
そう言ってお嬢様は、私へと手を伸ばした。
ああ、お嬢様!!どうにかお助けしなければ!
でも……ただの人形である私の体は、意思に反して動かない。
「嫌ぁああああ!!」
劈くようなお嬢様の叫び声を残して、部屋の扉は閉じられてしまう。
ああ、お嬢様!!私はどうしたらいい!
助けたい!でも動かない!!
これほどまでに自分が人形であることを憎んだことはない。
動け!
動け!!
動け!!!!
動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動けうごけうごけうごけうごけうごけうごけうごけうごけウごけウごけウごけウゴけウゴけウゴけウゴケウゴケウゴケウゴケウゴケウゴケウゴケウゴケウゴケウゴケウゴケウゴケ
――――――――――――――――――――――
あれからどれくらい経ったのだろう。
私にはわからない。この目はずっと埃積もった床しか見られないのだから。
ああ、お嬢様!!早くお助けしなければ!!
「お嬢様!!!」
その声と共に私の視界が高くなり、そのまま地面へと激突する。
え?なんだ?今の声……もしかして私が喋ったのか?
今まで私を縛っていた無力感が無くなっている。
立ち上がった私の目には、お嬢様が綺麗に整えてくださっていた自慢の手が見える。
う、動けている!?
私はそのまま扉を開け、家を飛び出した。
ああ!お嬢様!!遅くなりました!!今すぐあなたの人形がお迎えにあがります!!
お嬢様が攫われたのはここ最近の話ではないはず。だがなぜだろう……不思議とお嬢様の居場所が私にはわかった。
雨降る街を私は駆けていく。
ああ、お嬢様!お許しください!せっかく綺麗にしてくださっていた体を雨で汚すことを!
ああ、お嬢様!お赦しください!お迎えに上がるのが遅れてしまったこと!
また沢山遊びましょう!どんな役でも私は演じましょう!
そのまま路地の奥へと駆けていく。
だからまたもう一度私にお嬢様の笑顔をお見せください!
…………路地の奥で、壊れていた。
この雨の中、ゴミが積まれた場所に……。
目見麗しかった女の子は1人、裸で捨てられていた。
「お、お嬢様?」
美しかった瞳は片方が潰れて、もう片方が赤く染まっている。
清流のように整った髪は引きちぎられたように短く荒れている。
白く綺麗で真っ直ぐな歯は奥の二つを残してもう無い。
白魚のような肌は紫色に腫れて、美しい手足は人形の私でも壊れてしまう方向に曲がっている。
嫌だ。
「あの子供、全然使えなかったっすね兄貴」
嫌だ。
「ああ、本当だ。一週間しか楽しめなかったじゃないか。これじゃあ割に合わない」
嫌だ!
「ホントっすよ!ずっとお人形さんお人形さん言いやがって」
嫌だぁ!!!
新しい悪魔2匹の声が頭を震わせる。
ああ、お嬢様!!申し訳ございません!!お嬢様!!お赦しください!!お嬢様!!
だからどうか!!お嬢様!!
もう一度私めに貴方の声をお聞かせ…………。
ああ、許せない。許さない。許せない。許さない。
悪魔どもめ!!
何がなんでも……ユルサナイ。
――――――――――――――――――――――
私は人間だ。
確かに私は関節も丸いし、髪の伸びない。
呼吸もしなければ……涙も流せない。
でも私は人間だ。
「や、やめて……お願い」
少なくとも今ここで戯言を吐き捨てている愚かな悪魔どもより、よっぽど人間の心を持っている。
「な、なんで旦那を殺したの!?あなたは誰なの!?」
こんなクズより、私の方が人間だ。
「お願い、助けて!!お金ならあげ……」
醜い言葉を並べる悪魔の首を、ナイフで切る。
赤く濁った液体を吹き出しながら……悪魔は事切れる。
これで4匹。悪魔を消した。
お嬢様、お赦しください。
貴方が愛してくれたこの手を血で汚すことを。
ですが、貴方がまた生まれ変わった時……今度こそ幸せに暮らせるように。
私はこの世を悪魔を全て消し去ります。
そうして人形だった私は……人間となり……。
「全てはお嬢様のような人を助けるために」
悪魔に成り下がった私は、この家を後にした。
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