第3話
――第3章――
『速報! 世田谷でスマザー・スクワッドが二組、まさかの生放送対決!』
全国の視聴者が見守る中、スクワッドAとスクワッドBが互いを値踏みするように向かい合った。
『右側はスクワッドA!』
〈スクワッドAメンバー:ユミ・タナカ(18)。サクラ・サンギモト(19)。アズラ・アサギリ(18)。リナ・イチカワ(18)。キヨコ・クロサキ(18)。〉
〈スクワッドBメンバー:チハル・カンザキ(22)。ユウキ・クロミヤ(18)。ミサキ・アイザワ(18)。カナ・シロガネ(19)。リオン・カミズキ(21)。〉
チハルがユミを睨む。
「ユミ」
ユミも睨み返した。
「チハル。何しに来たの。私の街で」
「あなたの街? このステージで恥かかせてあげようか?」
「やってみなさいよ。処刑する理由が欲しいだけ」
「こっちも同じ。ちっさいクソ女」
ユウキが爪を噛みながら、落ち着きなく足を揺らす。
「戦う? 戦う? 戦うの?」
サクラが首を鳴らした。
「そりゃもう、めちゃくちゃ期待してる」
次の瞬間、少女たちは一斉にザンコへ向かって駆け寄り、抱きつくように群がった。
「サー! サー!」
「潰す許可をください!」
「私たちに格の違いを教えさせて!」
「私たちが一番ですよね!? 言ってください、サー! あいつらに!」
(やれやれ)とザンコは思う。(どう処理する? ……成熟した方法でいこう)
ザンコは咳払いをした。
「こらこら、子どもたち。私は君たちを等しく愛している。ならば大人らしく決着をつけよう。――競争はどうだ?」
「ってことは、戦うんだね?」チハルが聞く。
「いや、互いに殴り合うのではない。君たちは警官だ。一週間で“最も多くの犯罪を止めた方”が、日本の覇権を得る。どうだ、少女たち?」
十人がうなずく。
「乗ったわよ、偽物ども」ユミが低く言った。
チハルがユミの目の前まで詰め寄る。
「いいね。見せてもらおうか」
チハルがユミの襟を掴む。ユミがその手を叩き落とした。
「触らないで!」
「誰だと思っ――」
二人が揉み合いになり、あっという間に全員が絡み合って取っ組み合い、もみくちゃになった。ザンコは深いため息をつく。
「やはり私は、スクワッドAだけでよかったのだが」
キヨコが、もみくちゃを避けたまま聞いた。
「サー、いつから開始ですか?」
「今だ」ザンコが告げる。「即決着とする」
少女たちは離れて整列し、観衆は固唾をのんで見守った。ザンコが彼女たちの前をゆっくり歩く。
「見ろよ、ディレクター・ザンコ、めっちゃ真顔じゃん」
「いつもじゃない?」
「違うって、いつも笑ってるし!」
ザンコはユミの前で足を止めた。
「期間は一週間。全ての重罪人は、君たちが受けた訓練と同じプロトコルで対処せよ。十人全員が全力を尽くすと信じている」
「はい、サー!」
「では行け、警官たち。犯罪者を止めてこい!」
「サー、イエス、サー!」
一秒も無駄にせず、十人はそれぞれ別方向へ走り去った。ステージに残ったザンコは、観衆へ向き直る。
「ええと……子どもたち、犯罪はするな」
拍手が起こる。しかしザンコはそそくさとステージを降りた。オオシマ知事が駆け寄るが、間に合わない。
「……くそ。誰とも写真撮れなかった……」
◆
新宿――
路地の真ん中で、若い男が老人の顔面を殴り続けていた。
「金は? 金どこだよ! 俺の金は!? このクソジジイ!」
「お……お願い……私……金、ない……」
「おい」
男が振り向くと、腕を組んだサクラが立っていた。
「うわ、やべ――」
(はいはい)とサクラは思う。(プロトコルね。めんど)
咳払いをして、声を張る。
「ガキ。今すぐ伏せろ。重罪の暴行で死刑」
「お願い、話だけで――」
「黙れ。私が許可したときだけ喋れ」
「なんでよりによって一番性格悪いのに当たんだよ……」男がぼそっと愚痴る。
男が地面に伏せる。サクラはその横に立った。
「……よし。処刑方法は絞殺。私の脚でお前の喉を締めて、息が止まるまでやる。動くな」
スカートの位置を整える。
「始める」
サクラは男の横腹へ体を寄せ、脚を首に回した。瞬間、気道が潰され、男の頭がガクンと揺れる。
(息が……できない……)男は必死に思う。(なんでこんな力――)
サクラがさらに締め上げ、視界がじわじわ暗くなる。反射で男は彼女の脚を引き剥がそうと爪を立てた。
「やめろ」サクラが低く言う。「目を閉じろ。大人しくしろ」
角度を調整し、手を振りほどく。やがて男の体が力を失い、動かなくなった。サクラは指を首筋に当てる。
(うん)とサクラは思う。(脈なし。キヨコがいないから確認は雑になるけど、まあいい)
男の胸にまたがり、ポケットを探った。
「武器なし……武器なし。ディレクターが見てるかもしれないし、ちゃんとやらないと」
スマホが出てくる。
「……へえ。これは没収」
ポケットに入れ、老人の方へ戻った。
「おい。大丈夫? 聞こえる?」
老人が弱々しく手を伸ばす。
「……警察……の……子……」
サクラは老人を壁にもたれさせた。
「待って。すぐ救護呼ぶ」
(それと)とサクラは内心で笑う。(これでスコア1。Bの二軍ども、ざまあ)
◆
渋谷――
アズラは渋谷の街を歩きながら歴史書を読んでいた。
「……2015年の犯罪率は人口比で450%増。興味深い時代」
「ドラッグ! ドラッグあるよ!」
アズラが顔を上げる。マスクをした男が小袋を掲げていた。
「重罪」アズラは淡々と記録するように言う。「職務を遂行する」
アズラが男の肩を叩く。男は飛び退いた。
「うわっ! スクワッドの隊員かよ!」
アズラの白い瞳は、瞬き一つしない。
「お前は重罪を犯した。これより処刑する。今すぐ地面に伏せろ」
男はアズラを上から下まで眺め、にやっと笑った。
「へえ。可愛いじゃん。わかった、負けでいい」
男は一瞬、上を見てウインクする。屋上には別のマスク男がいたが、アズラが周囲へ視線を走らせた途端、すっと姿を消した。
男がゆっくり伏せる。アズラはヒールを男の目の上に置いた。
「処刑方法は踏殺。ヒールを眼球に突き立て、脳に達するまで捻る。質問はあるか」
「ひとつだけ」
「言え」
「殺した後、ポケットの端末を持ってってくれない?」
「了解。では静止」
アズラはヒールを持ち上げ――叩き落とした。
ぐちゃ、という鈍い音。さらに捻る。
通行人はちらりと見て、手を振る者もいたが、そのまま歩き去っていく。
数分後、アズラは足を離し、男のポケットへ手を伸ばした。小さな箱を取り出す。
「無線機……用途があるはず」
ポケットへ入れ、首に指を当てる。
「脈なし。任務完了」
◆
大田――
リナは店で買い物をしていて、淡い水色のワンピースを手に取っていた。
「〜わあ、これ可愛い〜」
レジの店員が目を輝かせて迎える。
「リナ・イチカワさん! ご来店光栄です!」
リナはにこっと笑った。
「えへへ、ありがとう!」
「30%引きにします。ご用意できたらどうぞ、かわいい子」
会計を終えると、店員はリナにハグをして見送った。
外に出たところで、汗だくのユミとぶつかる。
「ユミ?」
「リナ! ここ、男が走っていくの見なかった?」
リナは首を振る。
「見てないよ! 買い物してた!」
「……くそ」
そこへキヨコが、ポテトチップスとホットドッグを頬張りながら来た。ユミがじとっと見る。
「……で、あなたも巡回してないのよね?」
「してたよ」キヨコが言い返す。「疲れたから休憩してるだけ。私はナースで、普通の隊員じゃないし」
ユミは目を回すようにため息をついた。
「……いい。二人とも付いてきて。遠くへは行けないはず」
三人はユミの後を追い、ユミは地面の足跡や擦れを読み取るように進む。
「……こっち。痕跡がこの建物に入ってる」
ドアには看板が貼られていた。
「ゴースト・サグ団・アジト」
「面白いね」キヨコがもぐもぐしながら言う。「入る? 罠かもよ?」
「どっちでもいい。重罪人がいるなら捕まえるだけ。……行くよ」
ユミがドアを蹴り開ける。拍子抜けするほど鍵は開いていた。三人は中へ踏み込む。
――
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