スマザー・スクワッド
rimurugeto
第1話
――第1章――
東京――
仮面をかぶった三人組の強盗が都内の銀行に押し入り、天井へ向けて発砲した。店内は悲鳴と怒号で一気に崩れ、客たちは出口へ向かって走り出す。
「全員どけ。ここは俺たちの当たりくじだ」
リーダーがもう一発、警告のように撃つ。
行員の女が両手を上げた。「わ、わかりました! わかりましたから!」
三人はカウンターへ詰め寄る。女は慌てて札束を袋へ詰め込み、差し出した。
「こ、こちらです!」
リーダーは袋をひったくるように受け取り、中身をざっと確認した。
「偽札だったら――お前のケツごと袋に入れてやるぞ」
「ち、違います! ほんとです! 自分の金庫から出しました!」
「そうだといいな。ジェフ、見ろ」
隣の巨体の男が札束に鼻を寄せ、じっと目を細めて確かめる。
「……うん。本物だ」
「よし」
三人は金を抱えて外へ飛び出し、車に乗り込んだ。
「急げ、逃げるぞ!」
車が去った瞬間、行員はカウンターの下へ身を沈め、震える指で通報した。
「こちらスマザー・スクワッドホットライン。緊急内容をどうぞ」
「お、お願いです! 今すぐスマザー・スクワッドを! 銀行が……強盗に……!」
「進行中の重罪の通報で間違いありませんか」
「はい! はい! いま、バンで南へ走り去りました!」
「確認しました。スマザー・スクワッドAがまもなく到着します。落ち着いてその場でお待ちください」
通話が切れ、行員は息を切らしたまま崩れ落ちる。
「……助かった……」
◆
路上では、強盗の車が猛スピードでブロックを抜け、銀行から距離を稼いでいた。
「逃げ切れたか?」ジェフが聞く。
「心配すんなって」二人目のジョンが言う。「遠くまで走りゃ、気づかれもしねぇよ」
運転席のジムがアクセルを踏み抜く。
「金、しっかり抱えとけ」
角をいくつも曲がり、車は東京南部――品川区へ入った。
区境を越えて数分。背後からサイレンの音が迫ってくる。
「くそ、見つけやがった! あの女、売りやがったな!」ジムが吐き捨てる。
「踏め! もっと踏め!」ジェフが叫ぶ。
車は他の車両の間を強引に縫い、何台かを弾き飛ばしてスピンさせた。
「バカ! 重罪増やしただけだろ!」ジョンが怒鳴る。
「どっちにしろ終わりだ!」
ジムが前を見据え直した瞬間、目の前に巨大なタンクローリーが現れた。
「……やべぇ」
衝突音。三人の体が前へ投げ出され、フロントガラスにひびが走る。直後、後方でパトカーが停止した。
「やばい、やばい……来るぞ! 来るぞ! 行け! 行けよ!」ジェフがうろたえる。
「無理だ! 車が挟まって動かねぇ!」
パトカーのドアが開き、五人の少女が降りてきた。警察の上着に黒いスカート、黒のサイハイブーツ。金髪の少女がマイクを取り出す。
「車から降りなさい、重罪人! 両手を上げ、地面に伏せ!」
「ほんとに?」隣の赤毛がため息をつく。「引きずり出せばいいじゃん。子どもじゃないんだから」
「しっ。サクラ、プロトコルよ」
「はいはい」
ジェフがドアに手をかけたが、仲間が制した。
「何してんだよ」
「降りるんだよ! もう詰んでる!」
「正気か?」
金髪の少女が咳払いをする。
「繰り返します。重罪人、車から降りなさい。今すぐ」
赤毛の少女が拳を鳴らした。
「じゃあカウントね。5……4……3……」
二人はごくりと喉を鳴らし、しぶしぶ車から出た。三人とも両手を上げる。
「動くな!」金髪の少女が命じた。「お前たちは武装強盗、ひき逃げ。さらにこの車は盗難車の疑いがある。自動車窃盗も追加だ。よって死刑」
背後の少女たちがスタンガンを取り出す。金髪の少女は淡々と続けた。
「これより処刑方法を“スマザリング”とする。つまり――私が、お前たちの顔に座り、息が止まるまで押さえつける。一人ずつ」
彼女はリーダーを指さした。
「まずはお前から」
「待て、話し合――」
「黙れ。伏せて、動くな」
次の瞬間、他の少女たちが男たちを押さえ込み、金髪の少女がリーダーの顔の上に立つ。スカートがふわりと揺れた。
「安らかに」
そして――腰を落とした。
ほどなくして、世界は真っ黒になった。
◆
後刻――
『速報! スマザー・スクワッドAがまたも犯罪を阻止! 成功率は驚異の99.7%!』
『重罪犯罪が昨年比で200%減! ありがとう、スマザー・スクワッド!』
都知事室。大きな両開きの扉から、五人の隊員が入室する。待っていたのは、都知事のミチタカ・オオシマだった。
「来たか、君たち。ユミ、サクラ、アズラ、リナ、キヨコ。よく来てくれた」
金髪のユミが一礼する。
「光栄です、知事」
「今日は君たちが犯罪を阻止して一万件目だ。祝うべきだろう!」
少女たちは顔を見合わせる。茶髪のキヨコが頭をかく。
「……どんなお祝いをお考えで?」
「君たち働き者のための祝賀だ! 東京を一日まるごと貸し切って、大規模なパレードを――」
青髪のリナが明るく手を合わせた。
「〜ありがとうございます、知事。でも、そこまでは必要ないと思います〜」
「遠慮はいらん。明日の18時に出席してくれ。生放送で君たちを迎える。ディレクターも連れてきたまえ!」
一瞬の沈黙。五人は頭を下げる――赤毛のサクラだけ、スマホをスクロールしたまま。ユミが肘でつつくと、サクラは慌てて姿勢を正した。
「承知しました」
「感謝のしるしだ、リーダーのユミ」
知事は自分の顔が刻まれた盾をユミに手渡す。ユミは引きつった笑みを浮かべた。
「あ、ありがとうございます……」
「では、解散!」
◆
知事室の外で、ユミがサクラを止める。
「何してるの?」
「ジェフってやつのスマホ見てるだけ。なに、用?」
「……どうして?」
「だってさ。見てよ、300ドル分のギフトカード持ってた。ウーバーで何か頼めそう」
リナがユミの肩に飛びつく。
「〜わたしも! わたしも何か欲しい〜!」
キヨコが腹をさする。
「私も。隊のナースって、かなり体力削られるんだよね」
ユミは額を押さえた。
「……もう、ほんとに」
白髪のアズラが車の運転席に乗り込む。
「私は帰る。乗るなら3秒以内に乗車」
「待って、アズラ――!」
「3。じゃあね」
そう言い残して、アズラは走り去った。
「はぁ」サクラが肩をすくめる。「じゃ、ウーバー呼ぶしかないか。飯と一緒に」
◆
屋敷――
少女たちは白と金の豪奢な屋敷に到着した。車道には何十台もの車が並んでいる。玄関前でユミがカードキーを通した。
「ふぅ……長い一日だった。ミスター・ザンコに全部話したい」
「家にいるといいけど」サクラが言う。「あの人、いつもいないし」
扉が開く。豪華なリビングに大階段。ソファでは犬がテレビを見ていて、リナが撫でに行った。
「〜ロッキー! 会いたかったよ、もふもふ〜」
「ワン!」
「ミスター・ザンコ!」ユミが呼ぶ。
他の少女たちも続けて呼んだが、返事はない。
「部屋じゃない?」キヨコが言う。「だいたいそこにいる」
「じゃあ私が――」ユミが名乗り出る。
「いや、私が」サクラが遮る。
「だめ。あなたは行かない」
「行く」
アズラが二人の間に入った。
「合理的に考えると、確認は私が最適。ここで待機」
ユミとサクラが同時に反発する。
「ダメ!」
――そのとき。
骸骨の仮面をつけた男が、玄関の外から彼女たちを見ていた。スマホで録画しながら、低い声で囁く。
「帰宅を確認、ボス。次は?」
スピーカー越しに、ノイズ混じりの声が返る。
『足止めしろ。“プロジェクト・マフィア”のことは絶対に気づかせるな』
「了解、ボス」
男は影のように消えた。ちょうどロッキーが玄関のほうを振り向く。
「……ワン?」
――
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