第2話
§
ママが死んだ日、パパは膝を屈め、目を合わせて言った。
「ママは星になったんだ」
その言葉で十分だった。
ママは死んで、星になった。
その日、私はたくさん泣いた。そして泣きはらした目で私は、夜空を見上げた。
「・・・・・・ママ・・・・・・」
ベランダから夜空を眺め、ママの星を探す。けれど、夜空にはたくさんの星があった。
どれがママなのか分からなかったけれど、光っている星のひとつひとつが、みんなママの星のように思えた。
――ママの星は、未星の事を永遠に見守る星だから。だから絶対、夜空にいるよ。
ママの言葉を思い出しながら、私は夜空を見つめる――次の日も。また次の日も、夜になると星を見た。
寒い夜は、パパが毛布を肩に掛けてくれた。一緒になって夜空を眺める。パパが側にいてくれるだけで、落ち着いた。
一人になると、ママがいない事を思い出して悲しくなるから。
パパも、それを分かって側にいてくれるのかもしれない。あるいはパパも、一人だと悲しいから側にいてくれるのかもしれない。
私たちはまだ、ママのいない生活に慣れない。
§
ママが死んでから、幼稚園の送り迎えはパパがするようになった。
ママが送り迎えしてくれた時は、一度も遅れてきた事はなかったけれど、パパはお仕事で遅れて来たり、急いで来たりと大変そうだった。
だから私も、パパ遅いよ、とは言わなかった。
ある日。
「なぁ、お前のママどうしたの?」
クラスの友達の大介くんが何げなく言った。それはただの好奇心で、悪気のない言い方だった。けど、私の胸はチクリと痛む。
「・・・・・・ママ、死んじゃったんだ」
言った途端、ズシリと体が重く、沈むような感覚になった。
でも、と私は続ける。
「ママは死んだけど、星になったんだ」
自分に言い聞かせるように、私は言った。すると大介くんは一瞬キョトンとした顔をした。でもすぐに真顔で反論した。
「人は死んでも星にならないぞ? 俺のママが言ってたけど、星ってただの大きな石ころなんだ。人が星になるなんて、絶対嘘だよ」
「嘘じゃないよ! ママ言ってたもん!」
「じゃあママが嘘吐いてたって事だろ」
「ママの事ウソつき呼ばわりしないで!」
「でも普通に考えて有り得ないから」
大介くんは自分の意見を変える気はなさそうに、頑なにそう言うから、私はムカついて何度も嘘じゃないと言い続けた。私たちの騒ぎを聞きつけて他の子たちが集まってくると、事情を訊ねられるので話すと、みんな大介くんの方を信じる。
私は余計に腹が立って大声で嘘じゃないと言い続ける。でも誰も私の話を信じてくれない。ママの話を信じてくれない。
私は悲しくて、ついに涙が溢れた。 それは、ママを嘘吐き呼ばわりされたからだけじゃない、嘘じゃないとしか言えない自分の弱さが情けなくて出た涙だった。
§
その日の夜、私はベランダに出なかった。
リビングのソファーでしゃがみこんでいると、パパがソッと近付いてきて言った。
「・・・・・・未星、今日なにかあった?」
心配するパパの声に、私は胸が痛んで苦しくなった。すると、さっきクラスで喧嘩した事を思い出して、引っ込んだ筈の涙がまた溢れる。
「・・・・・・うぅぅう、く、クラスの男の子が、ぁ、ママ、いぃないって・・・・・・。ひ、人はしんでも、星に、なんて・・・・・・、っならないって!」
嗚咽でつっかえながら、私は言うと、パパは黙って私の隣に座った。そして優しい声で、いたわるように一言、「そっか」と呟く。
すると急に、心の奥に引っ込んだ怒りがまたよみがえる。
私はガバリと起き上がって、パパに迫る。
「でも嘘じゃないって私言ったよ! ママはウソつきじゃないもん! でも誰も信じてくれなかったのっ・・・・・・でも、ママは星になって私やパパを見守ってくれてるよ! ねぇ、パパそうでしょ・・・・・・!」
パパはすぐには答えなかった。
なにか考え込むような表情を浮かべて、なにか言おうとしていた。
やがてパパは、私の頭に手を置いて、ゆっくりと撫でてくれる。
「そうだね、未星の言う通りだよ。ママは星になって未星やパパを見守ってくれてる」
その言葉が救いだった。
すーっと、私の心にモヤモヤした気持ちが引いていく。
よかった、パパが信じてくれて。
私は気持ちが落ち着くと、パパは言った。
「星を見よう」
「・・・・・・うん」
目元を拭い、私は頷く。
そして、今日も夜空を見上げた。
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