第2話 ドM活動

まず俺は状況把握から開始した。


分かったことはまず今は物語開始の5年前。俺は10歳だ。


「今日も綺麗だね母さん」


「ええ、当たり前よ。ほほほ」


この二人俺の父ドエム ホウビンと母ドエム セメールである。


父は同じドMで母はドSである。


俺の家は代々こういう夫婦関係らしい。


なんてドMな家庭なんだよ……


「相変わらずご主人様のご機嫌取りは気持ち悪いですね」


メイドのサーシャが罵る。


「ほほーい!」


父が歓喜の声をあげる。


「あら、ふふ。うるさい豚ですね」


「ひゃはーー!」


父さんのすねが蹴られる。


「ここは地獄か?」


これが俺の現在であった。


詰みじゃね?


「どうしました?子豚……カイ様?」


今子豚って言った!?


「い、いやなんでもないぞ?」


にやける口元を必死に抑えながら返事をする。


「あら、カイどうしたのいつもなら大喜びなのに」


「いえ、もちろんうれしいですよ!?」


怪しまれたら色々面倒なので必死に笑顔を作る。


「おお、我が子ながら見事な気持ち悪い笑みね」


我が子なら手加減してくれよ!?


俺の心とは別にカイの体は身震いして喜ぶ。


こいつ実に母親でも罵られたら嬉しいのかよ!?


俺は身をもってカイの業の深い欲を知る。


トゥルン!


頭に音が鳴った。


これはレベルが上がるときの音?


何で今なんだ!?


まさか、これもダメージ判定なのか!?


俺はゲームではないのでステータスを確認できないが、確実に体が軽くなっていること確認できた。


おいおい、ドM過ぎ精神的苦痛もダメージ認定なのかよ!?


こいつは掃除機かよ!?どんな吸引力だよ!?


だが、これは喜ぶべき事実かもしれない。これを活かせば命の危機をなくしてレベルアップできるし、レベルが上がって戦えるようになったら戦闘でのダメージも経験値だ。


つまり約二倍人より経験値が入るわけだ!


これは素晴らしいぞ!


ならやることはこれだ!


「サーシャのバカ!」


俺は挑発して罵りを誘発させる。


「あ!?」


「いえ!すみません!すみません!」


俺は這いつくばって謝る。


「あなたみたいな醜い豚には調教がいりますかね?」


「ふひひひ!」


俺は自然と気持ちの悪い笑みが出る。


「ほんと気持ち悪いお方ですね」


ドン引きのサーシャである。


トゥルン!


おお!あまりのサーシャのきつい言葉に一気に経験値が入ったのか!


「ふふふ」


俺はあまりの簡単さに本気の笑みが出る。


「奥様、ご子息様はさらに深い扉を開いた模様です」


「さすがドエム家のものね。才能がすごいわ」


それから徹底的に俺はドM活動にいそしんだ。




数年後…


「俺はそうして頑張ったはずなのだが?」


「よう、変態!おはよ」


「変態おはよう」


俺は気付けば屋敷中の使用人から変態と呼ばれることになっていた。


元からきつい口調だったがさらに成長してもはやため口である。


「なあ、サーシャ?」


「はい?」


「何でこうなった?」


「それは変態が誰彼構わず挑発して罵らせて喜んでいたからではありませんか?」


はい…


「それはそうと今日は婚約者様と会う予定ですが大丈夫ですか?」


「うん?聞いてないけど?」


「言ってませんからね?」


なんてメイドだよこいつは!?


そもそもぞも婚約者なんてこいつにいるのか!?


「俺が相手でよく了承したな?」


「ああ、相手のおかたも男性が嫌いで相手がいないのだとか」


「おお!なんて好都合!」


それなら一生を共にすることで俺は永久にレベルアップをすることが出来るな!


「また、カイ様の性のはけ口にするつもりですか?」


「おい!さすがにそれはない!?」


さすがのカイ君もこれは許容できないのかすんなりツッコめた。


「ならどうするおつもりですか?」


「いや、肩身が狭い同士気が合うのじゃないかなって」


「意外とまっとうな考えで驚きました」


「いや、ほんと俺のことなんだと思ってるんだよ……」


「性欲オーク?」


「ふひーーー!」


俺は喜びに身を震わす。


トゥルン!


きもちいいいーーー!


俺はこの抗いようのない二つの快感を享受していた。


もはや、俺の体ではないのだとドMは受け止めるさ。


同時に前世の俺のゲーマーとしての快感も受け止める。


その結果、超ド変態の完成であった。


「な、なにあれ。あれが私の相手なの?」


声の方向を見ると小さな同い年くらいの銀髪の綺麗な少女がいた。


「そうですよー!どうもー!」


俺は前世の営業時代の名残で急接近する。


「ひ!?」


「怯えないでください無害な変態ですよ?」


まるで「噛みませんようちの犬」というかのような言いぶりのサーシャ。


「無害じゃない変態なんていないじゃない!?」


「そうですね、一本取られました」


いや、感心している場合かよ!?


「いや、確かに俺は変態だがドMだ。されるのはいいが何かするのは嫌なんだ。だから大丈夫だ!」


「何が!?」


まだだ!この渾身の笑みを見よ!


俺は営業時代の渾身の笑みを浮かべる。


「え、気持ち悪い。死んで?」


「うひょーーー!!」


なんだこれは!?今までに感じたことのない感じがする!


さっきから頭の中でレベルアップの音が鳴りやまない!!


「ふひひひひ」


「やばいわねこいつ。大丈夫なの?」


サーシャに聞く少女。


「はい。いつもより激しいですが概ねいつも通りです」


「私の婚約者なのこれ?」


「はい。ドエム カイ様です」


「名前からしてやばそうだったけど本当にやばかったわね……」


「もっと言っていいぞ!」


「うえ!?こっちくんな!」


「ぐへ!?」


俺はおもっきり顔にグーパンされ吹っ飛ぶ。


「や、やば!またやっちゃった!?」


少女はカイに駆け寄り体を揺らす


「ねえ、大丈夫!?」


「うーーーん!!いい一撃だったよ!!もう一発どうぞ!!」


「ひいい!気持ち悪い!!」


今度は腹に蹴りが直撃。吹っ飛ぶ。


「ふふふ」


俺はむくりと立ち上がる。


俺の口からは自然と笑みが漏れていた。鳴りやまぬレベルアップの音。そしてカイ君の快感。両方が俺にとってのご褒美だった。


「こいつゾンビなの!?」


「まあ、この数年体は鍛えていらしましたからね」


「え!?あの体型で!?」


「どうも体質らしく痩せないのだとか」


「ほんと気持ちが悪いのてんこ盛りね?」


「ええ、ドエム カイですから」


「なるほどねドM改ってわけね?」


「そんなことよりもっと!!」


「なら大人しくしていなさい!」


「はい!ワン!」


こうして俺は生涯を共にするパートナーと出会ったのであった。













  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る