『五十歳の小学生 ~異世界帰還者の昭和ライフ~』
よし
第1話 プロローグ 目覚め
「……ここは?」
目を開けると、見慣れた天井があった。いや、「見慣れた」というのは正確ではない。四十年以上も前に見ていた、懐かしい天井だ。
佐藤一真——五十歳、独身、元異世界勇者——は、混乱していた。
つい先ほどまで、彼は病院のベッドの上にいたはずだ。末期がん。余命三ヶ月。天涯孤独の身で、静かに最期を迎えるはずだった。
だが、異世界で十五年を過ごした経験が、彼に冷静さをもたらした。
「落ち着け。状況を整理しよう」
まず、自分の身体を確認する。小さい。明らかに子供の身体だ。手のひらを見る。柔らかく、しわ一つない。
次に、部屋を観察する。木造住宅特有のきしむ音。障子から差し込む朝日。壁には昭和のアイドルのポスター。そして、カレンダーには「昭和53年4月」の文字。
「……逆行、したのか」
一真は深く息を吐いた。
異世界から帰還して三十年。結婚もせず、家族とも疎遠になり、孤独に生きてきた。異世界での戦いで得たスキルは現代日本では役に立たず、ただ虚しく日々を過ごしていた。
だが今、彼には二度目のチャンスが与えられた。
小学二年生、七歳の佐藤一真として。
「鑑定」
異世界で習得したスキルを試す。すると、視界の端に半透明のウィンドウが浮かび上がった。
【ステータス】
名前:佐藤一真
年齢:7歳(精神年齢50歳+異世界15年)
スキル:
鑑定(物品・人物の詳細情報取得)
身体能力強化(Lv.8)
格闘術(Lv.9)
特殊能力:未来知識(2018年まで)
「スキルは健在か。ならば……」
一真は拳を握りしめた。身体能力強化のスキルが、幼い身体にも作用していることを感じる。
「今度こそ、後悔しない人生を送ろう」
階下から母の声が聞こえた。
「一真ー! 朝ごはんよー!」
懐かしい声。涙が出そうになるのを堪えて、一真は答えた。
「はーい、今行くー!」
こうして、五十歳の小学生の新たな人生が始まった。
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