『聖者のスープと、冬萌(ふゆもえ)の街 ――孤独なコップをひっくり返して――』

@mai5000jp

『聖者のスープと、冬萌(ふゆもえ)の街 ――孤独なコップをひっくり返して――』

錆びついた風が 鉄の街を吹き抜ける 工場の煙突は 低く重たく 絶望の歌を歌い 三番ホームのベンチには 「すっぱい春」を置き去りにした 孤独が座っている


あなたの「心のコップ」は 今 何で満たされていますか? 長すぎた「日陰」の時間 自分を裁き続けた 苦い泥水 誰にも届かない「助けて」の泡


けれど 見てごらん 冬至の夜の 底の底 「わけわかめ」な制度の隙間で 凍える背中に 聖者は 静かに火を灯す


それは 魔法の杖ではない ただの 古びたお玉と 鉄の鍋 南瓜(なんきん) 人参(にんじん) 蓮根(れんこん) 「ん」のつく運を じっくりと煮込んで 琥珀色の湯気が 凍てついた窓を溶かしてゆく


「さあ、飲みなさい。五分だけでいいから」


一口啜れば 喉の奥で 氷の塊が解けてゆく 泥水だったコップを 思い切りひっくり返して 空っぽになった器に 温かな光を注ぎ直す 「おいしいね」 その一言が 何万光年の孤独を繋ぐ 冬の大三角になる


人生単位の傷跡も 割に合わない疵(きず)も 全部抱えて 「乃東生(なつかれくさしょうず)」 世界が眠る真冬に 一番早く 芽吹く命があるように あなたの痛みは 誰かを温める 「冬萌(ふゆもえ)」に変わる


雨が降ったあとに 緑が育つように 流した涙の数だけ 光は透き通る 探す宛てのない僕らだけど 今はただ このスープの温もりを 信じて進もうか


僕は 僕自身を 愛してる 愛せてる その声が 新しい朝陽となって シャンパンゴールドの街を どこまでも照らしてゆく


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