第2話 世界を救った魔法少女

 麻保は魔法のステッキを左指にはめていた星形の指輪から出現させて呟く。

「つい懐かしくて人目のない場所で久しぶりに魔法を唱えたらまさか山が吹き飛ぶなんてねー。」

 しかもかつての少女だった頃よりはるかに魔法力がかなり上回っていたのです。

「幸い近くに火山があったから誰にもバレずに済んで時空魔法で山を戻しておいたけれど、私もう魔法なんて使えないものだと思っていましたわ。もしご近所さんたちにバレたりしたら・・・。」

 麻保は魔法を使えたことが知られた空想に耽る。


「奥様!魔法少女でしたの?」

「まあ!ウチでも扱えたらよろしいのですけど。」

「お教え願います?奥様!」

 隣人の奥様に詰め寄られ麻保はご近所さんを右往左往していき町中に噂が広がっていく。

やがて屈強な男たちが取り囲んでいき、

「奥さん!魔法使えるんだって!」

「奥さん!山吹っ飛ばせるんだって!」

 そして、精強な方々の肉体労働の傍ら解体作業を魔法で遂行していく麻保の姿に。


「イケナイわ!このままでは私が泥に塗れる男臭い奥様として知られてしまう!」

 なぜか独り言の多い想像力豊かな奥様だがそれは答える者が近くに現れているからだ。

「イヤハヤ!流石世界最強と謳われた魔法少女様だね!山を木っ端微塵にする威力を出す破壊魔法も空間を元に戻す時空魔法も扱えるようになっていたとは元相棒だった身としては鼻が高いよ!」

「昔の話でしょ!旦那にバレないかと昨日はほとんど眠れなかったわよ!フェス!」

 魔法のステッキと共に現れたシルクハットを被り燕尾服を着ているレッサーパンダのような妖精フェスが麻保の周りをフワフワと飛び回っている。

「それは気の毒に!再契約が済んだら少しお休みになったらどうだい?」

「だーかーらー!もう魔法少女にはならないって言っているでしょう!世界の崩壊を防いだのだから私の出番は終わっているの!」

 ご近所との体裁を気にして拒否する麻保にフェスは人差し指を立てる。

「それがそうとも言い切れないんだよなぁ。暗黒魔王との激戦の末に世界の崩壊を止めるためプレシャス☆マホが精神体となって世界の中心で人柱になったことで世界は安定した。しかし、そのせいで分離された肉体にはほとんど魔力が残っておらず泣く泣く魔法少女を引退することとなったプレシャス☆マホ!」

「泣いてないし!というよりそんな経緯は記憶にないのだけど?」

「無理もないよね。魔法少女時代の記憶は精神体の方に残り、弾き出された肉体のプレシャス☆マホにはそのほとんどが失われている。」

 そう言ってフェスがシルクハットから小さなハートの宝石を取り出した。

「こちらがそのプレシャス☆マホの記憶だ。これをワンドのハートに嵌め込めばかつての記憶が蘇るよ!」

「はぁ・・・。そもそも何で今更魔法少女にだなんて、あと昔のマジカル名で呼ばないで!」

「そう!あれから20年の時が過ぎた今世界のマジカルパワーが著しく枯渇し、各地に散らばる魔法少女たちはかつてほどの魔法力を発揮できずに悪の軍団に太刀打ちできなくなっているんだ!」

「そんな⁉一体どうして?」

「僕達の女王様はマジカルパワーの源である大いなる魔法を世界全体に行き渡らせる異次元の穴がうまく開かなくなって魔法の循環が滞って機能しなくなっていると言うんだ。つまり魔法の循環をホースの水の流れだとするとホースが詰まっていたり穴が開いていたりしているから水が流れなくなっているわけさ。」

「ふーん。それで?」

「現在の世界は安定しているが、このまま世界中のマジカルパワーが減り続けると悪の魔物たちによってマジカル帝国は破壊され世界は崩壊する!女王様はプレシャス☆マホの精神体に役目を終わらせてこの僕フェスティバロン=アイルルスⅣ世にプレシャス☆マホの復活を仰せつかったんだ!」

 事の経緯を饒舌に語っていくフェスに麻保は気だるげに首を後ろに伸ばして左右に振る。

「盛り上がっているとこ悪いけど私にはもう大事な家庭があるのよ。なんだか危なそうだし余所様にお願いしてちょうだい。」

「そんな釣れないこと言わないでよ!もうプレシャス☆マホの精神体は肉体に定着し始めているんだよ!」

 フェスは麻保に縋るように懇願していく。

「プレシャス☆マホが世界を救うカギなんだ!それに精神体だけが戻ってもプレシャス☆マホだった時の記憶の宝石が無いとマジカルパワーの制御ができない。今のキミは魔法戦士じゃなくただの危険な主婦だ。僕が全身全霊で色々サポートするからさ。頼むよ~!」

 上目遣いの小動物系の妖精ににじり寄られて麻保は肩をすくめる。

「・・・分かったわよ。まずは魔法少女時代の記憶を取り戻しましょ。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る