第21話 庭師と薬師01

ドワーフの国ゴルディアス共和国から戻ってきた翌日。

(昨日のから揚げ定食は完璧だった。から揚げの美味しさは当然のこととして、その付け合わせにさっぱりしたナスの辛し和えや菜っ葉の白和えなんかが添えられていたのが、なんともいい取り合わせだった。それにけんちん汁だ。けんちんという言葉の意味はわからんが、あの野菜の滋味たっぷりの味が、口の中で鶏のうま味と出会った時のあの感動たるや……。いやぁ、さすがはハンナさんだ。恐れ入ったよ……)

などと思いつつ、詰所に顔を出す。

みんなに挨拶をし、事務員のエリカからはたんまりと溜まった書類を受け取った。

その書類の量に少しげんなりしつつ、いったんまずは収納の魔道具を担ぎ詰所を出る。

いつもの道を通りゴードンさんの店に着くと、店番をしていたメイベルさんに、

「ただいま。持ってきましたよ」

と告げ、さっそくアダマンタイトの延べ棒を四つ収納の魔道具の中から取り出した。

「あらまぁ。ご苦労様。うふふ。これでしばらくは楽しい思いができそうね」

といかにも職人らしいことを言うメイベルさんをなんとなく微笑ましく思っていると、奥から汗を拭いつつゴードンさんがやってきた。

「おう。ご苦労だったな」

「いや。こちらこそありがとう。グラッツさんがよろしくとよ」

「へっ。あの唐変木は元気だったか?」

「ああ。元気いっぱい働いてよく酒を飲んでいたよ」

「ふっ。ならいいさ。で、そいつが成果だな」

「ああ。一応確かめてくれるか?」

「ん? んなもん一目見りゃすぐわかる。グラッツの野郎。気ぃつかいやがって」

「どういうことだ?」

「ああ。アダマンタイトの中でも特に純度の高い最上級品を寄こしやがったってことだ。放つ魔力が全然違ってやがる。こりゃとんでもねぇ刀ができ上るぜ」

「そうか。楽しみにしているよ」

「おう。任せときな」

最後にきっちり握手をして店を出る。

私はどことなくウキウキし、

(新しい武器か。楽しみだ……)

と思いながら、詰所へと戻っていった。

書類と格闘して家に戻る。

またいつもの食卓で、家族が揃い食事になったが、ノンナはお土産に渡した髪飾りがえらく気に入ったらしく、

「ほんと、ユーリにしては可愛いの選んでくれたわね。どう? 似合う?」

と昨日と同じことを聞き、ずいぶんご満悦のようだった。


翌日。

朝から溜まった書類を片付けていると、事務室にノルドさんがやってきた。

「ユーリ。それから、ライナ。任務だ。シャーリー先生のお供をしてくれ。いつもより奥に行きたいそうだから気を引き締めてかかってくれよ。ライナは奥は初めてだったよな。勉強だと思ってしっかりユーリの行動を見習ってこい。出発は明後日だそうだ。集合はここでいいらしいが、朝一番に出るらしいから遅れるなよ」

「はい!」

「了解です」

必要なことだけを告げ、ノルドさんが師長室に戻っていく。

それを見送るとさっそくライナが、

「ユーリさん。よろしくお願いします!」

と言ってガバッと頭を下げてきた。

「奥に行くといっても基本はいつもとたいして変わらない。ただ、魔獣の数は増えるからそのつもりでいてくれよ。おそらくだが、うちの子たちもついてくるというだろうから何の心配もないさ」

「はい!」

「そうかしこまるな。気楽にいこう。明日は市場で買い出しをするから午後は空けておいてくれ」

「……市場へ、ですか?」

「ああ。食料品は支給品でもいいが、市場で買った方が美味いからな。そのへんのコツも伝授してやるよ」

「了解です! 楽しみにしてます!」

それから一応、食料品以外の必要な準備を一緒に再確認したが、さすがラッツさんがいろいろと面倒をみているだけあって、特に不安な点は見つからなかった。


翌日の午後。

ライナと一緒に市場に買い出しに行く。

「ここの肉屋はベーコンが美味い。ただし少しだけ高いから量が欲しいときは一本先の通りにある荒物屋の先から路地に入ったところにある肉屋に行くんだ。味はまぁまぁだが、良心的な価格でいわゆる庶民の味方って感じの店だからな。あと、乾物はこの三軒隣にある乾物屋で揃えるといい。安くて品もいいからな。ああ、でもカレールーとスープの素は別の店がいいぞ。デニス商会ってわかるか? 中央広場沿いの大店だ。あそこはハンナさん直伝のものを売っているからな。他とは味が違うんだ」

そうやって美味しい店を教えていると、ライナは感心したような呆れたような微妙な表情で、

「……ユーリさんってわりとこだわり屋さんなんですねぇ」

と言ってきた。

「そうか? 森の中でも美味しいものが食べられたほうがいいだろう。野営中の飯だからといって適当に済ませているといざという時元気がでないからな。飯は意外と重要だぞ?」

「そうなんですね。頭に入れておきます」

「ああ。是非覚えておいてくれ。ライナ、料理は得意か?」

「いえ……。いわゆる騎士団飯ってやつばっかりで……」

「ああ。あの量さえ食えればあとは適当って感じの飯か……。よし、今回の遠征では料理のコツも伝授するから、楽しみにしておいてくれ」

「はい!」

そんな会話をしながら、適当に買い物を済ませていく。

今回の遠征はおそらく十五日くらいになるだろうから、けっこうな量を買い込んでいった。

いったん詰所に戻り書類の確認をしてから帰宅する。

いつも通りハンナさん特製の味噌玉やスープの素を受け取ると、その日は早めに床に就いた。


翌朝。

いつもより少し早く家を出る。

「わっふ! お散歩楽しみ!」

「ははは。れっきとした仕事だかな。遊びに行くんじゃないぞ?」

「うん! でも、森に行くの久しぶりなんだもん!」

「はっはっは。子供は遊びながら成長するもんじゃ。なに、リルのことはわしがちゃんと見ておるでな。そちは任務とやらに集中するがよいぞ」

「ああ。頼む」

そんな会話をしながら歩いていると、いつもより早く詰所に到着した。

「おはようございます!」

朝から元気に挨拶をしてくるライナに挨拶を返し、携行品の最終確認をする。

それがちょうど終わったころ、今回の護衛対象であるシャーリー先生が元気よく詰所に入ってきた。

「やっほー! 今日はよろしくね! あ、ユーリ君久しぶり! おっと、そちらのお嬢さんは初めましてかな? 知ってると思うけど、私が今回の護衛対象、シャイデルリ―ド・ノナ・スプラウディだよ。気軽にシャーリーちゃんって呼んでね!」

いきなりハイテンションでそう言うシャーリー先生にライナは戸惑いつつ、

「ライナであります! よろしくお願いします!」

と、なんとか騎士らしい感じで敬礼をしていた。

そんな光景に半分呆れつつ、

「シャーリー先生。新人が戸惑っている。もう少し普通にしてやってくれ」

と苦笑いで頼むとシャーリー先生はわざとらしく不貞腐れたような表情を作って、

「えー。ユーリ君ってば相変わらずノリ悪いー」

とぶーたれるふりをしてきた。

そんなシャーリー先生に今度はうちの子たちが、

「まったく。相変わらず騒がしい女じゃのう」

「おはよう、シャーリー。今日も元気だね!」

と挨拶をする。

「やぁやぁ、子猫ちゃんにわんちゃん、久しぶりだね。といっても五日くらいかな? この間のお茶会は楽しかったよ。またしようね!」

「ふっ。まぁ、お主の持ってくるお茶は妙に美味いからのう。また一緒になってやってもよいぞ」

「あはは! マロンちゃんってば、相変わらずツンデレなんだらっ! リルちゃんは私の特製茶どうだった?」

「うん。とっても美味しかったよ。なんか、甘くて元気になる感じだった!」

「でしょ? あれってけっこう苦労して作ったんだよね。アーニャの体のことを考えて魔力の巡りがよくなるように調合したやつだからさ。神獣様のお墨付きって感じでそのうち売り出そうか?」

「おいおい。人の名前を勝手に使うでない。しかし、あのお茶はいいものじゃ。是非世間に広めるとよいぞ」

「うん。頑張って庶民でも買える値段に抑える工夫をしてみるよ」

と話が妙に盛り上がっているところに、

「すまんが、さっそく出掛けるぞ。話の続きは馬車の中でしてくれ」

と苦笑いで割り込んで、さっさと荷物を担ぐ。

そして私たちは詰所を出ると、玄関先に用意してもらっていた馬車に乗り込み、さっそく森へと出発していった。

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