第7話 師長とオークと大きなわんこ02

家に戻り、背嚢型の収納の魔道具に食料を詰めていく。

この収納の魔道具というのはゴードンさんの妻で魔道具職人のメイベルさんが作ってくれたものだ。

庭師には標準装備として支給されている。

かなり高価なものなので、一般には普及していないが、口から入るものなら荷馬車一台分くらいの物が入るし、重さも普通の荷物と同じくらいの重さにしかならないとにかく便利な道具だ。

(うっかり食料を入れっぱなしにしたまま忘れて腐らせてしまうことにさえ注意しておけば、かなり便利なものなんだよな。これが安価になれば流通に革命が起こるんだろうが……)

そんなことを思いながらしっかりと入れた物の目録を作りながら、買い込んできた食料を入れていく。

そして、その作業が終わると私は母屋の台所へ向かった。

「あら。おかえりなさい。夕ご飯ならすぐですよ?」

と微笑みながら迎えてくれたハンナさんに、

「明日から急遽森に入ることになりました。今回は少し奥まで行く予定ですから、味噌玉とスープの素を多めに分けてもらいたいんです」

と苦笑い交じりに言うとハンナさんは少し心配そうな表情になった。

「大丈夫ですよ。今回は師長と一緒ですから、いつもより安全です」

「そう。でも、油断しないでね?」

「はい。わかっています」

そんな会話をしていると、そこにふらりとマロンが現れて、

「わしもついていってやろう」

と、いつも通り鷹揚に申し出てきた。

「ああ。構わんが師長も一緒だぞ?」

「うむ。先日の調査の時、なんだか妙な気配を感じてな。取り越し苦労かもしれんが、少し気になる。これでも一応森を守る神獣の一角を担っておるんじゃ。たまには働かんと世界樹にどやされてしまいかねんからな」

「ほう。伝説の世界樹ってのはお説教もするのか」

「ああ。微笑みながら厳しいことを言ってくる感じじゃな」

「そうか。一度会ってみたいものだ」

「お主ならもしかしたらそうなるかもしれんな」

「例の世界樹の守護者ってやつか?」

「ああ。森に異変があったとき、世界樹はそれを沈めるため、誰かにその力を渡す。それが人になのか神獣になのかはわからんがな。まぁ、お主も十分その候補になるくらいの実力はあるということじゃ」

「……なんだか面倒そうなお役目だな」

「ふっ。いざという時のために精進しておけよ」

「ははは。気が向いたらな」

そんな会話をして、台所を後にする。

その日の夜は、ふわとろのオムライスで、私が小さい頃好きだったエビフライも添えられていた。


翌日。

朝から、準備をして家を出る。

ハンナさんはやはり心配そうにしていたが、私がいつも通りに微笑んで、

「いってきます」

というと、普段通りに微笑んで、

「いってらっしゃい」

と送り出してくれた。

少し早めに詰所に入り、諸々の確認をしてから師長室に向かう。

そこにはいつもの制服とは違い、重装備に身を包んだノルド師長がいた。

「お待たせしました」

「おう。……お。猫ちゃんも一緒なんだな」

「うむ。少し気になるからのう。仕方ないからついていってやるわい」

「ふ。そいつは心強いってもんだ」

「あくまで人の力が及ばん時だけしか手伝わんからな?」

「ああ。わかってる。しかし、それでも心強いってもんさ」

「ふっ。せいぜいわしの手を煩わせんように精進しろよ」

「ははは。了解だ」

そう話してさっそく出発する。

「ゲン担ぎだ。かつ丼でいいか?」

というノルドさんの提案でその日の昼はかつ丼になった。

揚げたてさくさくのカツとトロトロ卵の素晴らしいハーモニーを素早く堪能して王都の門に向かう。

門の脇に預けてある馬に乗ると、そこからはやや急ぎ足に次の宿場町を目指した。

定宿に泊まって、翌日も街道を進む。

そして、森の入り口にある小さな村に着くと、またいつもの宿に入った。

宿自慢のシチューを食べながら、

「いつも通りの連携でいこう。背中は任せたぞ」

「了解です。その代わり、硬いのは頼みますよ」

「ああ。ロックリザードの突撃くらいならなんとでもしてやるから、安心していてくれ」

「相変わらず頼もしいですね」

「ふっ。褒めてもなにも出ないぞ」

と軽く打ち合わせのような言葉を交わし、さっさと飯を終える。

そして翌朝、早く。

いつものように宿に馬を預け、私たちは森に入っていった。

二日ほど順調に進んだところで、ゴブリンの群れに出くわす。

五十ほどの群れだったが、

「連携の確認にはちょうどいいな」

というノルドさんの提案を受け、二人で相手をすることになった。

堂々と群れの中に突っ込み、ハルバードを振り回すノルドさんの背中を守ってゴブリンを斬っていく。

(やはり防御に長けた人と一緒だと安心感が違うな……)

と思いつつ刀を振っていると、いつも以上に早くゴブリンが鎮圧された。

「魔獣を狩るのはいいが、この後始末が面倒でいけねぇ」

とぼやきつつもきっちり後始末をするノルドさんと一緒にゴブリンを集め、簡単な火魔法で焼いていく。

ゴブリンはあっという間に灰になり、その灰の中から小さな魔石を拾い、作業は無事終わった。

「さて。少し早いが昼にしよう。今回も任せてもいいか?」

「了解です。リゾットでいいですか?」

「おう。ってことはあれか? ハンナ様特製のスープの素の出番か?」

「はい。トマト味のやつを使おうかと」

「そいつはいいな。町で売られているのもいいが、やっぱりハンナ様が作ったやつは違う。お前と森に入ると美味い物が食えるから、それだけでも大助かりだ」

「ははは。光栄です」

そんな会話をしながら、テキパキ料理を作り、熱々のリゾットをハフハフ言いながら、手早く食べる。

そして軽く食後のお茶を済ませると、私たちはさらに森の奥を目指し行動を再開した。

時折魔獣の相手をしつつ進むことさらに三日。

ようやく薬草の群生地の一つに到着する。

「見た感じ、まだ薬草に異常はなさそうだな」

「ええ。でも、周囲には鹿の痕跡がこれでもかっていうほどあります」

「ああ。どうやら大きな群がとどまっているようだな」

「はい。鹿の魔獣の群れは大きくても十頭程度が普通です。それが、これだけ大きな群になっているというのはなんとも妙な感じですね」

「……何かに追われてこの辺りにきた、と考えるのが自然だろうな」

「ええ。その可能性が高いと思われます。鹿をこれだけ追い込むということは虎でも出たのでしょうか?」

「その線もあるな。しかし、もっと厄介なのが出てると想定したほうがいい」

「と言うと?」

「虎も鹿にとっては大きな脅威になるが、あいつらは群れない。たった一匹や二匹でここまで多くの鹿を追い込むことは不可能だろう。だとしたら、原因は別だ。もっと大食らいで、群れて行動する魔獣……、と言えばわかるか?」

「……オークですか? しかし、鹿と言えども魔獣の端くれです。オーク程度にここまで追い込まれるとは思えませんが……」

「ああ。通常はな。しかし、オークロードが出たとなったらどうだ?」

「……!?」

「ユーリはオークロードの経験は無かったな。厄介だぞ。なにせ五十くらいのオークが統率の取れた行動をする。それにオークロードの強さは通常のオークの比じゃねぇ」

「となると、いったん戻って部隊を編成し直しですか?」

「……いや。状況は意外と切迫していそうだ。このままだとけっこうな被害が出かねん。お前と俺ならやれんこともないだろう。いざという時は猫様のお力もあるしな」

「……了解しました。マロン、頼めるか?」

「ふっ。危ない場面があったら助けてやるから、まずはお主らで立ち向かうがよいぞ」

「ありがとう。それだけでも助かるよ」

「よし。そうと決まれば今日は安全そうな場所を探してそこで野営だな。地形図を見ながら、オークがたむろしていそうな場所に目星をつけよう」

「了解です」

そんな話をしておおよその方針が決まると、私たちは急いで今夜の寝床を探しに、さらに森の奥へと進んでいった。

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