第4話 傷
朝は、まず手のひらから始まる。
冷えた空気が皮膚に触れ、指の節がこわばる。火のそばで眠ったはずなのに、体の芯に残る寒さは抜けない。木の湿った匂いと、昨夜の煙の名残が鼻の奥に沈んでいる。
静は目を開けたまま、蓮の寝顔を見た。
額の熱は下がっていた。頬に血の色が戻っている。呼吸も落ち着いている。昨夜は何度も布を替え、水を飲ませ、熱の上がり方を確かめた。大丈夫だと思う。思うが、確かめる癖が抜けない。
蓮が少し身じろぎし、目を開けた。
静を見る。
それだけで、蓮の肩の力が抜ける。頼っていい場所を見つけたように、呼吸が安定する。
「起きる」
静が言うと、蓮は頷いた。言葉の理解はまだ粗いが、静の声の輪郭は掴んでいる。起きる、歩く、食べる、待つ。必要な言葉から、少しずつ増えている。
野営地はすでに動き始めていた。
女が火を起こし直し、男たちが槍の先を確認している。今日は狩りに出ると言っていた。狩りに出る者と残る者で、動きが分かれている。
静は言われた通り、残る側になった。残る側は弱い側だ。だが、今はそれでいい。蓮の指の腫れはまだ残っている。歩きながら怪我をさせるより、ここで守った方が確実だ。
狩りに出る男が、火の向こうから静を見た。
「子ども、余計なことさせるな」
静は頷いた。
返事は短く。余計な感情を混ぜない。ここでは、余計なものが目立つ。
狩りの一団が出ていく。足音が森に吸われ、やがて消える。残ったのは女二人と、静と蓮、それから動けない老人ひとり。老人はまだ生きている。昨日埋めた老人とは別の老人だ。生きているが、体は薄い。息が浅く、目が遠い。
静は老人を見て、背中が少しだけ冷えた。
戻らない、と言った言葉が、自分の中でまだ湿っている。
女が静に指示する。
「水、汲め」
静は器を持って沢へ向かった。蓮は静の後ろをついてくる。足元はまだ不安定だが、昨日よりは歩ける。草の覆いを見直したのが効いている。
沢の水は冷たい。器にすくうと、指が痺れる。水の音は、ここでは安心の音だ。飲める。洗える。火を維持できる。
静が器を満たして戻ろうとしたとき、蓮が足元の石を見て立ち止まった。
石の間に、小さな白いものが見える。骨か、貝か。蓮はそれを拾おうとして、しゃがんだ。
「待て」
静が声をかける。昨日の蛇のことが頭に残っている。石の下には何がいるか分からない。
蓮は一度静を見たが、好奇心が勝ったのか、手を伸ばした。
その瞬間だった。
蓮の指先が石の縁に引っかかった。石は思ったより鋭かった。乾いた石の角が、皮膚を裂く。
蓮が息を吸い、次に吐けなくなる。
静はすぐに器を置き、蓮の手を掴んだ。
指の腹が切れている。薄いが、しっかり裂けている。血がじわりと滲み、指先から落ちる。赤い点が土に吸い込まれる。
蓮は目を見開き、手を引こうとする。痛みが怖いのではない。痛みの後に来るものが怖い。昨日、痛みの後に責められた。責められるのは、自分だと学んだ。
静は蓮の手を離さず、指を水で洗った。
蓮が小さく声を漏らす。声は泣き声にならない。泣く前に飲み込む癖がついている。
静は布を裂き、指に巻いた。
「動くな」
静は短く言う。
蓮は頷き、静の足元に寄る。
野営地に戻ると、女がこちらを見た。
静は何も言わず、蓮の手を見せた。言い訳をしない。言い訳をすると、余計に疑われる。疑われると、蓮が危険になる。
女は蓮の指を見て、眉を寄せた。
「またか」
女の声は冷たいが、怒りだけではない。疲れが混じっている。腹が減ると、疲れが露出する。露出した疲れは、弱い方に向かう。
女は静を見た。
「見てろって言っただろ」
静は頷いた。
「俺が見る」
昨日と同じ言葉を繰り返す。繰り返すことで、ここでの自分の役割を固定する。固定すれば、多少は許される。
女は舌打ちをし、蓮に背を向けた。
「血を止めろ。匂いが出る」
血の匂いは獣を呼ぶ。獣だけではない。匂いは、他の群れにも届く。匂いが届けば、弱さが見つかる。
静は蓮を火のそばに座らせ、布をもう一枚巻き直した。指の裂け目は小さいが、深い。止血はできたが、傷は傷だ。感染の概念がこの場にあるかは分からない。だが、腫れれば動けない。動けなければ置いていかれる。
静は蓮に木の実を渡した。
蓮は片手で受け取り、口に運ぶ。怪我をした指をかばいながら、慎重に噛む。噛む回数が増え、飲み込むのが遅い。痛みで集中が削られる。集中が削られると、食べることすら難しくなる。
静はその様子を見て、胸の奥が重くなるのを感じた。
今日の怪我は軽い。軽いが、ここでは軽さが命を保証しない。
昼を過ぎ、狩りの一団が戻ってきた。
手ぶらだった。
男たちの表情が固い。誰も言い訳をしない。しないが、空気が荒れている。足音が重い。槍を地面に突き立てる音が乱暴だ。火のそばに座る動きが雑だ。
腹が減っている。
腹が減っていると、誰かが悪者になる必要が出てくる。悪者がいると、腹の痛みを外に出せる。外に出したい痛みが、ここには溜まっている。
男のひとりが蓮を見た。
蓮の指に巻かれた布に目が止まる。血の匂いは、火と煙で薄まっている。それでも、布の色が違うだけで目立つ。
「また、やったのか」
男の声が低くなる。
静は男の視線の前に立った。
「俺がやった」
口を滑らせる前に言った。蓮を守るための言い方だ。嘘ではない。静が守れなかった責任を、静が背負う。
男は静を睨んだ。
「おまえは役に立たねえ」
静は何も言わない。
言い返すと、場が荒れる。場が荒れれば、蓮が巻き込まれる。
男は唾を吐き、火のそばに座った。女が小さな木の実を配る。数が少ない。ひとり一つ。子どもにも一つ。
蓮がそれを受け取ろうとしたとき、指の布が擦れたのか、蓮が顔を歪めた。歪めた瞬間、男が笑うような息を吐いた。
「泣くな」
男の言葉は命令ではない。嘲りだ。
蓮は泣かない。泣けない。泣くと危険だと覚えている。だが、痛みは痛みだ。顔が歪むことは止められない。
静は蓮の肩に手を置いた。
「食べろ」
蓮は小さく頷き、木の実を口に入れる。
夜になるまで、蓮の傷は痛み続けた。
静は何度も布を替え、傷を見た。血は止まっている。だが、裂け目の周りが赤くなっている。腫れが少し増えている。熱を持っている。これは、昨日の蛇の傷と似ている。似ているのに、違う。蛇の傷は点だ。今日は線だ。線は開きやすい。開けば、また血が出る。
静は眠らずに火の世話をしながら、蓮の手を見続けた。
蓮は毛皮に包まって寝ようとするが、指が痛むたびに身じろぎする。眠りが浅い。浅い眠りは体を回復させない。回復しないと、明日の移動が危ない。
静は焦る。
焦るが、焦りを見せられない。
焦りは、余計な動きになる。余計な動きは目立つ。目立てば狙われる。
静は息を整え、蓮の手をそっと握った。
蓮の手は小さい。熱い。掴む力は弱いが、静の指を離さない。触れるだけで安心するように、指が絡む。
静は胸の奥で、ひとつ決めた。
この傷が、どれくらいで治るのか。
治るという概念を、この場の誰も持っていないかもしれない。だが、静は知っている。皮膚は塞がる。時間が経てば痛みは引く。赤みは消える。だが、その時間は個体差がある。子どもは早いかもしれない。栄養が足りないと遅いかもしれない。感染すれば悪化するかもしれない。
静には、もう一つの差がある。
自分だけが、異常に戻る。
戻る速さが、一定ではない。だが、戻る。
それを蓮に見せるのは、危険だ。危険だが、今は必要かもしれない。蓮が傷を負うたびに、責められる。責められるたびに、蓮の中に「自分は足手まといだ」という形が出来ていく。形が出来たら、いつか蓮は自分から離れようとするかもしれない。離れた瞬間、蓮は死ぬ。
静はそれを避けたい。
だから、蓮に差を意識させる。
差を意識させるというのは、残酷だ。だが、差があるなら、差を理解した上で一緒にいるしかない。理解できない差は、いつか爆発する。
静は火の明かりを見つめ、決断の重さを舌の奥で転がした。
翌朝。
空が薄く明るくなり、鳥が鳴き始める。夜の湿り気が草に残り、足元が冷たい。
蓮はまだ眠っている。眠っているというより、眠りに落ちたばかりのように見える。疲れが限界で、やっと意識が途切れた。静はその顔を見て、胸の奥が痛んだ。
静は蓮の布をほどき、傷を見た。
塞がっていない。
裂け目はまだ開いている。血は止まっているが、皮膚は戻っていない。赤みは濃く、腫れも残っている。指を少し動かすだけで痛むだろう。これでは、今日の移動は難しい。
静は喉の奥が乾いた。
このままでは、置いていかれる。
狩りに出た者は手ぶらで戻った。腹が減っている。腹が減っている集団は、遅れる者を切り捨てる。切り捨てるのは簡単だ。口減らしになる。弱さを捨てることで、強さのふりができる。
静は蓮の顔を見て、決断を固めた。
同じ傷を、自分に作る。
同じ場所。同じ深さ。同じ条件。
そして、どれくらいで戻るのかを確かめる。
それを蓮に見せるのは、危険だ。だが、蓮に差を理解させるには、見せるしかない。言葉では伝わらない。言葉にするほど、周囲に漏れる。
現象で見せる。
静は火のそばへ行き、石の刃を手に取った。狩りに使う刃ではない。小さな石の欠片。切れる部分がある。指の皮膚を裂くには十分だ。
静は呼吸を整えた。
痛みは知っている。何度も味わった。骨が折れる痛みも、息が止まる痛みも。指が裂ける痛みは、その中では軽い。軽い痛みだからこそ、迷いが出る。迷いが出ると、傷が不格好になる。
静は刃を自分の指に当てた。
蓮と同じ指。指の腹。あの裂け目と同じ位置。
そして、一度で切った。
皮膚が裂け、熱い痛みが走る。血がすぐに滲む。じわりではなく、すっと赤が出る。静はそれを見て、少しだけ安心した。条件が近い。近ければ、比較になる。
静は布を巻いた。血を止める。匂いを抑える。
痛みはある。だが、痛みがあることが重要だ。痛みがあるなら、現象として成立する。
蓮が目を覚ましたのは、その少し後だった。
蓮はまず静を探し、静を見つける。いつもの動きだ。だが、次に蓮の視線が静の手元に落ちた。
布が巻かれている。
蓮は目を瞬かせ、静の手を見た。自分の指と同じように、布が巻かれている。蓮の中で、何かが繋がる顔になる。
「しず……」
蓮の声が小さい。
静は頷いた。
「同じ」
それだけ言った。
蓮は自分の指を見て、次に静の指を見る。言葉の理解が追いつかなくても、現象は理解できる。静も傷を負った。静も痛い。静も同じだ。
その瞬間、蓮の肩の力が少しだけ抜けた。
同じ、というのは救いになる。孤独が薄くなる。
静は、そこで終わらせなかった。
同じで終わらせると、蓮はまた油断して怪我をする。怪我をすれば責められる。責められるたびに、蓮の心が削れる。
静が見せたいのは、同じではない部分だ。
差だ。
差は残酷だが、事実だ。
静は蓮の指の布を巻き直し、慎重に言った。
「動くな。今日は、ここ」
蓮は頷いた。熱が少し残っている。傷の痛みもある。今日は無理をさせない。
女が近づいてきて、静の手を見た。
「おまえもか」
静は頷いた。
女は鼻で息を吐き、狩りに出る準備を続けた。静が怪我をしたことで、責める矛先が少しずれる。だが、同時に静の価値が下がる。下がるが、それでいい。今は蓮が生き残ることが優先だ。
午前中、集団は移動の準備を整え、静と蓮と老人を残して森の奥へ狩りに出た。残された野営地は静かだ。風の音と、火の小さな音だけが残る。
静は蓮の隣に座り、火を維持した。
蓮は何度も静の指を見た。静の指の布を見て、自分の布を見て、また静を見る。目の動きが忙しい。頭の中で、何かを比べている。
昼過ぎ、蓮が小さく言った。
「……いたい」
蓮の言葉は、昨日より明確だった。痛いという言葉を覚えた。痛いと言えるようになった。それだけでも前進だ。痛いと言えると、助けを求められる。助けを求められると、生き残る確率が上がる。
静は頷いた。
「痛い。俺も」
蓮は少し安心したように息を吐く。
静はその安心を、長くは続けさせなかった。
夕方。
狩りの一団が戻ってきた。今日は小さな獣を一匹仕留めていた。肉は少ないが、食べられる。火のそばで解体が始まり、匂いが濃くなる。脂が煙に乗り、腹が鳴る音があちこちから聞こえる。
蓮にも肉が少し配られた。蓮は痛む指で肉を掴み、口に運ぶ。静はそれを見て、胸の奥が少しだけ軽くなる。栄養が入れば、傷は治りやすい。治りやすいという希望が持てる。
夜。
静は眠らない。眠れない。眠ると飛ぶ可能性があるからだ。飛ぶのは静だけだ。蓮を置いて飛ぶわけにはいかない。だから、静は火の明かりの中に留まる。
火を維持し、周囲を見張り、蓮の呼吸を確かめる。
そして、何度も自分の指の布の下を確認した。
痛みはある。血は止まっている。だが、静の中には確信がある。明日には戻る。戻るという確信だ。確信があること自体が異常だと、静は分かっている。
翌朝。
空気が昨日より乾いていた。雨は降らなかった。火の灰が白く、軽い。風が少し強く、煙が流れる。
静はまず、自分の指の布を外した。
裂け目がない。
皮膚が戻っている。赤みも薄い。腫れもない。痛みもほとんど消えている。昨日、確かに裂けたはずの皮膚が、何事もなかったように繋がっている。
静はそれを見て、胸の奥が冷えた。
戻ってしまった。
望んだ通りの結果なのに、嬉しくない。嬉しくないどころか、嫌なものが喉に貼りつく。これは普通ではない。普通ではないことが、蓮の前で露出する。
静はすぐに布を握りしめ、周囲を見た。誰も見ていない。大丈夫だ。だが、蓮はもう起きているかもしれない。蓮は静の動きを見ているかもしれない。
静は蓮の方を見た。
蓮は起きていた。
静を見ていた。
蓮の目は、火の明かりを映して揺れている。揺れの中に、警戒が混じっている。昨日までの信頼の目とは少し違う。何かが引っかかった目だ。何かが分からないまま、引っかかっている。
蓮は静の手を見た。
布が外れている。指が露出している。傷がない。
蓮は自分の手を見る。自分の指の布をほどく。ほどく動きが急だ。焦りがある。焦りは目に出る。
蓮の指は、まだ塞がっていなかった。
裂け目が残っている。赤みが残っている。腫れもある。痛みもあるだろう。傷は昨日より少し良くなっているかもしれないが、消えてはいない。
蓮は静の指と、自分の指を交互に見る。
口が少し開く。声が出ない。問いが喉まで上がっているのに、言葉がない。
静は息を吐き、蓮の前にしゃがんだ。
言葉で説明しない。言葉にすれば周囲に漏れる。漏れれば狙われる。だから、静は最低限だけ置く。
「俺は……戻る」
戻る、という言葉は危険だ。だが、これ以上の言葉はもっと危険だ。静はそれだけ言って、手のひらを見せた。
蓮は静の手のひらを見つめ、次に自分の指を握りしめた。
蓮の目に、理解が入る。
理解は、喜びではない。喜びと同じくらいの強さで、不安が入る。自分と静は同じではない。昨日の「同じ」は、今日崩れた。崩れたことが、蓮の中の世界を揺らす。
蓮は小さく言った。
「……なんで」
短い言葉だが、重い。なんで、という言葉は、死の問いと似ている。一度生まれたら消えない。消えない問いは、いつか答えを要求する。
静は答えられない。
自分でも分からないからだ。分からないまま戻り続けている。戻ることが普通になってしまっている。その普通が、他者にとっては異常だ。
静は蓮の目を見て、短く言った。
「知られるな」
蓮の眉が寄る。
「だれ」
「皆」
静の答えは、蓮にとってはまだ曖昧だ。だが、静の声が硬いことは分かる。硬い声は危険の合図だ。蓮はそれを感じ取り、口を閉じた。
その沈黙が、静の胸を締める。
蓮が静を信じる目は、残っている。だが、そこに新しいものが混じった。差への恐れだ。差がある相手に頼るのは、怖い。頼った瞬間、置いていかれるかもしれない。置いていかれるのは、昨日の土の盛り上がりと同じだ。
静は蓮の手を取った。
蓮の手はまだ熱い。傷の熱だ。静の手はそれに比べて温度が落ち着いている。温度差が、現実として指に残る。
静は言った。
「歩く。ゆっくり」
今日は移動だ。狩りは成功したが、食い物はすぐに尽きる。ここに長居はできない。女たちが荷をまとめ始め、男たちが槍を取る。空気が動く。
蓮は立ち上がろうとして、痛みで顔を歪めた。
静はすぐに背を向け、蓮を背負った。
蓮は黙って静の首に腕を回す。いつもの動きだ。だが、腕の力が少し違う。掴む力が強い。落ちないように、というより、離れないように掴んでいる。
静はその重さを受け止めながら歩き出した。
森の中に入る。葉の匂い。土の湿り気。風の冷たさ。鳥の声。生活の音が、今日も世界を作っている。
静は歩きながら、自分の指を見たくなる衝動を抑えた。
傷がないことを確認したくなる。確認すると安心する。安心すると油断する。油断すると目立つ。目立つと狙われる。
静はただ歩く。
背中の蓮の呼吸を感じる。蓮は生きている。生きているが、いつか死ぬ。いつか死ぬということを、蓮はまだ言葉として持っていない。だが、今日、蓮は自分と静の差を知った。
差は、次の問いを連れてくる。
なぜ自分だけ痛いのか。
なぜ自分だけ傷が残るのか。
なぜ自分だけ弱いのか。
そして、いつか。
なぜ自分だけ老いるのか。
静はその未来の問いを、背中で感じた。
蓮は今、ただ静にしがみついている。しがみつくことが唯一の答えだと思っている。静はその答えを否定できない。否定した瞬間、蓮は折れる。
森の中を進むうちに、空が少し明るくなった。
木々の間から、遠くの山の輪郭が見える。山の向こうには、別の群れがいるかもしれない。別の獣がいるかもしれない。別の季節が待っているかもしれない。
同じ日が二度来ないように、同じ傷も二度は来ない。
だが、傷が残した痕は消えない。
静は背中の蓮に、届かないと分かっていながら、心の中でだけ言った。
俺は戻る。
おまえは戻らない。
だから、俺が守る。
その矛盾の中でしか、ふたりは生きられない。
最後に。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
もし少しでも続きが気になったら、フォローや評価で応援してもらえると励みになります。次の話では、蓮が「差」を抱えたまま、それでも静を信じようとする瞬間が来ます。
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