超能力者対策班は、ヴィラン達の悩みを解決するために奔走する。〜能力者対策班奇譚〜
鍛冶屋 優雨
第1話 リフレクションガールは跳ね返さない。
1999年7月、当時、多くの日本人が考え…いや、期待していた恐怖の大王とやらは現れなかった。
特に何事もなく、日本が…いや、世界が滅びる…滅びなくても大惨事になると思い込んでいた現実逃避がちな人達は、貯金を使い果たしたり、借金をしたりして、自分自身のみが大惨事になっていた。
そんな、ほのぼの(?)とした一部のローカルニュースが流れていた1999年が終わろうとした12月の半ばにとあるニュースが流れた。
日本を中心としたアジア圏で超能力者が発生し始めたのだ。
発動者1号として認定された被検体は、当時は中学生であり、渋谷にある日本一…いや、もしかしたら、世界一有名なあの交差点で、超能力が発動してしまったのだ。
その中学生はエネルギー波を発生させるという、他の能力と比較して、第三者による知覚が容易なため、発動者1号となったのであろうと推察されているが、当時は、あの混雑した交差点で発動者1号を中心とした20メートル範囲の人達が、飛ばされるという事件だったため当時のニュースはこの事件で持ちきりだった。
このニュースを境に多くの超能力者が発見、認定され、中には超能力を悪用する者も現れたので、国を始めとした各機関に対策本部が立てられた。
それから時代は進み、2025年では各都道府県に対策課ができ、日常的に超能力の発見、超能力者への差別撤廃、誹謗・中傷対策、超能力者の能力の暴発抑制等々が行われるようになった。
これはとある県の、とある対策課に所属する人達の話である。
〜対策課所属ヒーロー(超能力者)の日誌〜
現代の超能力者は3つに分かれる。
対策課に所属あるいは協力する超能力者、これはヒーローと呼ばれ、能力者対策だけではなく、その超能力を使って人命救助等の社会活動に貢献する超能力者である
次に対策課が(対象者の認知に関わらず)把握しており、定期的に能力の発動、発散をさせることにより、人間社会に順応できるようにされている超能力者はヴィラン(対象者全員が積極的に悪事を働くわけではないが、抑制下以外で超能力が発動すれば大惨事にもなる可能性があるのでこのような名称になった)、そして、対策課や国の機関に介入される事を拒む超能力者は魔王と呼ばれている。
魔王に関しては積極的に悪事を働く者だけではないが、公的な機関の介入を拒む事で、悪事に加担する者という認識が根強いため、民間で魔王という呼称が定着したため、認識されやすいため魔王という名称になっている。
ちなみに、日本が発祥のため世界中で「MAŌ」と呼称されている。
魔王については十年前と比較して増加しており、各国がその対策に追われている。
日本では、例の予言は、時期は外れたが魔王の誕生は当たっていたとする本が出版され、さらに多くの予言本が乱立することになった。
〜能力発動者対策と差別との境界線より一部抜粋〜
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とある対策課の1日
ヒーローという仕事には、三つの敵がと言われている。
ヴィラン(魔王含む)、世論、あとは書類だ。
俺は広嶋県庁能力対策課・第三現場班所属、
ヒーロー
能力は「直線上の物体を切断する」。
災害時建築物の残骸の除去などに活躍するヒーローだ。
今日はどんなヴィラン対策かな?
そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、朝礼で上司がのんびりと俺に告げる。
「今日の15時の黒瀬。広嶋市の朝北区だ。担当は……ラインバスター、お前だ」
俺の自慢の能力、今日の任務には一切関係なくなったな。
俺の前にあるタブレットに今日のヴィランである黒瀬の情報が共有される。
――
氏名:黒瀬リラ(くろせ・りら)
ヴィラン名:リフレクションガール
性別:女性
能力名:《反転反射》
危険度:低
面倒度:極大
備考:褒めたり、叱ると暴走。
一一
俺は思わず聞き返した。
「……俺は拒否しちゃダメなやつですよね?」
「もちろん、君に拒否権はない。備考欄のとおり、“叱らない・褒めない・強く否定しない”の三原則を守れよ。」
ヒーローにしては、ずいぶん後ろ向きな心得だった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
リフレクションガールこと、黒瀬リラは、必ず15時に現れる。
何でも朝だったり、夕方や夜だったら出勤や帰宅などに迷惑がかかるかもしれないからということらしい。
今日も例外じゃない。
町外れの自販機の横。
彼女は缶コーヒーを飲みながら立っていた。
「……遅いわね。」
俺は時計を見る。
14時58分。むしろ定刻だ。
俺は早速、
「リフレクションガール、お前は市民の安全を考えてこんな場――」
言いかけて、俺は止めた。
俺のヒーロースーツのバイザーに赤く「危険」の文字が点滅する。
否定ワード注意。
「……ここは立ち入り禁止だ。」
「弱い」
即、ダメ出しが飛んだ。
「それ、ただの注意喚起、否定成分が足りない。」
俺は歯を食いしばる。
「君は……その……社会的に、少し……」
「ほら。言い淀んだ」
彼女は楽しそうに笑った。
能力は発動しない。
俺の任務は彼女の能力を限定的に発動させ、超能力のエネルギーを枯渇させ、彼女の超能力が暴発しないようにしなければならない。
「ちゃんと、言って。私は何がダメ?」
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黒瀬リラの能力、『反転反射』は正直、理不尽だ。
言葉であれ、実際の暴力であれ、彼女が否定されたり、被害があると感じれば、彼女の周囲に不可視の反射膜が展開される。
薬物が体内にあれば排出され、拘束具で拘束されていても、拘束具が損壊される。
銃弾や爆発等はもちろん反射される。
問題はその範囲だ。1メートルとかならば、被害は少ない。
しかし、彼女を強く否定したり、誹謗中傷したりすると、彼女の心象に応じて範囲が広がってしまうのだ。
さらに、褒めたり叱ったりするなど黒瀬リラの事を思って発言したりすると、黒瀬リラ自身が恥ずかしがって、能力が暴走、彼女の周辺、最大50メートル範囲に反射膜が展開されて周囲の建物が損壊されてしまうのだ。
だから彼女は彼女の事を思って、褒めたり叱ったらアウト指定能力者に登録されている。
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俺が対応に苦慮していると、
通りすがりのサラリーマンがぼそっと言った。
「また能力者かよ……。クソ邪魔だな。こんな社会不適合者達は纏めて無人島に送ってしまえば良いのに…。」
その言葉を聞いたリフレクションガールの能力が即展開、空気が震え、俺の足元のアスファルトがひび割れる。
「ちょ、ちょっと待って!」
俺は慌てて制止する。
「今の、他人の本音だから!ノーカウントで!」
「……うーん。」
リフレクションガールは首を傾げる。
「でも、心こもってたし、私は否定的と思ったし。」
「社会的偏見は燃料にしないでください!」
最近、彼女は能力が成長したのか、少しだけ抑制ができるようにもなってきた。
これは僥倖だ。
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しかし、最悪なのは、善意の第三者だ。
近所のおばちゃんが、買い物袋を提げて近づいてきた。
リフレクションガールのギャル系ファッションを見て、
「あなた、寒くないの?そんなにおヘソ出して、女の子がお腹を冷やすもんじゃないよ上着、ちゃんと着なさいね。」
その瞬間、リフレクションガールが固まった。
空気が震え、俺の足元どころか周辺のアスファルトがひび割れ始める。
「……あの人、今、あたしを心配して叱ってくれた?」
「あ、しまった!待て待て!今のは生活指導だから!学校の風紀委員の制服チェックみたいなものだから!叱っているわけではないよ!」
俺が慌てて、早口で告げると、
「そうかな…?」
リフレクションガールは首を傾げると空気の震えや足元のひび割れも治まってきた。
「すみません!僕が言っておきますので、早く帰って下さい!」
俺はおばちゃんの背中を押してリフレクションから遠ざける。
「何なのよ!もう!アンタもいい歳なんだろう?そんな格好して!うちの息子はね。アンタと同じくらいの歳だけど、ちゃんと就職…!」
おばちゃんは、俺のヒーロースーツ姿にも文句を言って去っていった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
そこに現れたのが、
ベテランヒーローのガーディアンだ。
「リフレクションガール!」
低く、よく通る声。
「……今日は何時まで出没できるんだ。」
「18時半」
「偉いな。ここらへんの会社の退勤時間を把握しているみたいだな!」
空気が震え、周辺のアスファルトがさらにひび割れる。
俺は叫ぶ。
「おい!ガーディアン!あんたベテランだろ!!何やってんだ!」
ガーディアンはため息をついた。
「……リフレクションガール…、面倒な能力だな。」
能力、さらに強化。
「さらに否定はダメだって!」
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もう時間がない。
18時25分、周辺会社の退勤時間が迫っているし、俺の報告書の締切も迫っている。
俺は覚悟を決めた。
「……正直に言う。」
リフレクションガールがこちらを見る。
「君、もうちょっと自分の事を思ってくれる人に心開きな。」
リフレクションガールの能力が停止する。
「……それ。」
彼女は小さく笑った。
「否定じゃなくて、結論でしょ?」
「だから効くだろう?」
彼女はその場にしゃがみ込んだ。
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俺のリフレクションガールに関する報告書の結論はこうだ。
「当該能力者は、強い加害意思を持たず、
自己否定を外部から補給することで、能力の暴走を抑制している。
今後の課題として、彼女の精神均衡を保つ必要がある。
当面の対応方針:
・否定しすぎない
・褒めない
・叱らない」
帰り際、リフレクションガールが言った。
「……またあんたが来る?」
俺は答えた。
「上司次第だけど、そっちが要望すれば、かなりの高確率で俺が出ることになる。」
その言葉を聞いて彼女は少しだけ満足そうだった。
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正義の仕事は、
悪を倒すことじゃない。
悪になりきれない人を、どう扱うかを考えることだ。
夕方の空は赤い。
今日も街は平和だ。
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