第3話 February(3)
「どーしよ、昨日寝ちゃって英語の課題終わんなかった。 おねがい! 見せて!」
ひなたは登校してきた奏に手を合わせて拝み状態だった。
奏は小さくため息をひとつついて、カバンの中からプリントを取り出して彼女に渡した。
「ありがと!! よかったー!」
ひなたは嬉しそうにそれを受け取ったが
「ちゃんと。 自分でやらないとためにならないよ。 やってこなかったらやってこないで先生に怒られた方がひなたのためじゃない?」
奏は冷めたようにそう言い放った。
「え・・」
いつもの彼とは違う雰囲気だったので、一瞬固まった。
「きちんと毎日やるべきことをやらないと。 人から教えてもらう事ばっかりで満足してたら。 成績は伸びないよ。」
いつもなら
しょうがないなァ
みたいな一言で、すむところなのに。
「・・どしたの?」
ひなたは思わず奏の顔色を窺ってしまった。
「え?」
「なんか。 いつもとちがう・・」
素直なひなたはそのまんまを口にした。
「そんなこと。 ないよ。」
奏は何でもない風にカバンの中身を机の中にしまった。
母が事故に遭って、北都邸に下宿するようになり
ピアノの先生も変わって、この1か月で環境が劇的に変わった。
特にさくらの指導の仕方がなかなかその空気を掴めなくて、レッスンが終わると本当に疲れる。
少しイライラしていると自分でもわかっていた。
ひなたはそのプリントをすっと彼に返して
「やっぱ。 先生に怒られる。 居残りするわ、」
と笑った。
「え?」
「確かに。 ちゃんとやらないと、だもんね。 あたし今まで嫌なことは全部避けて生きてきたから。 ちょっとは頑張るよ、」
ひなたは明るく言った。
「ん・・」
奏は少し彼女に当たってしまった気がして反省した。
ひなたの目にも
奏が少し疲れているように見えた。
高遠くんに比べたら
あたしなんか全然大変でもなんでもないのに。
プリント一枚もできないなんて。
自分が心底情けなかった。
「ただいまー」
「あ、おかえり。」
帰宅して部屋に戻るとななみが熱心に何か読んでいた。
「なに?」
と覗き込むと
「ね、コレおいしそうでしょー、」
チョコレートケーキの写真を指差した。
「ケーキ?」
「だって。 もうすぐバレンタインだよ。 今年はケーキもやってみようかなー。 ひとりじゃ無理かな。 ママに手伝ってもらわないと・・」
「ななみ、誰かにあげるの?」
「ううん。 別に誰もいないんだけどー。 パパと涼と凛にあげよっかなって。」
「ふーん。」
「おねえちゃん、奏くんにあげないの?」
と言われて、
「はっ・・?」
ベッドにカバンをぼんと置いたあと、思わず真顔になって振り向いた。
「え? バレンタインだよ? あげるでしょ?」
妹の穢れないその瞳に思わずたじろいだ。
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