「同担拒否のガチ恋相手が、俺の隣で『自分へのスパチャ』に頭を抱えていた件について」

tai-bo

第1話 画面の向こうの毒舌姫

「……はぁ!? またこの『K』って奴、こんなに投げてきて……。バカじゃないの!? ――あー、もう! 嬉しいけど、意味わかんない!」

放課後の誰もいないはずの3年B組。

忘れ物を取りに戻った俺、佐藤駆(さとう かける)が教室のドア越しに聞いたのは、聞き慣れた「推し」の声だった。

高飛車で、少しハスキーで、でもどこか愛嬌のある鈴のような声。

俺が人生のすべてを捧げているVTuber、『星乃るな』そのものの声だ。

(……え、なんで? るなが、ここに?)

恐る恐る、隙間から教室を覗き込む。

そこにいたのは、清楚な制服に身を包んだクラスの学級委員、白鳥結衣(しらとり ゆい)だった。

学校一の美少女と名高い彼女は、机の上に置いたスマホを睨みつけ、顔を真っ赤にして悶絶している。

「赤スパ(1万円以上の投げ銭)なんて、そう簡単に投げていいもんじゃないんだからね! この『K』ってリスナー、普段は無口なクセに……っ。あー、もう、本当に……バカなんだから」

白鳥はそう毒づきながらも、スマホの画面――俺が数分前に投稿した『今日も最高でした』というコメント――を愛おしそうに指でなぞっていた。

……心臓が、嫌な音を立てて跳ねる。

『K』というのは、俺のことだ。

そして、彼女が文句を言っている相手も、紛れもなく俺だ。

「……白鳥、さん?」

「ひゃあぁぁっ!?」

俺が思わず声を漏らすと、白鳥は漫画のように飛び上がり、スマホを背後に隠した。

「さ、佐藤くん!? な、ななな、いつからそこに……っ!」

「あ、いや、今さっき。……その、配信者、やってるの?」

沈黙が教室を支配する。

白鳥結衣の顔から血の気が引き、代わりに殺気が溢れ出した。

「……聞いたの?」

「あ、いや……」

「聞いたのね? 私が……『星乃るな』だってこと」

彼女はゆっくりと歩み寄り、俺の胸ぐらを掴んで壁に押し付けた。

学校での彼女からは想像もつかない、配信時のあの「毒舌キャラ」全開の鋭い視線。

「いい? 誰かに言いふらしたら、あんたの人生デリートしてやるから。分かった?」

「わ、分かった。言わない。絶対に言わないから……」

俺の答えを聞いて、彼女はホッと胸をなで下ろした。

だが、次の瞬間、彼女のスマホが通知を鳴らした。

――『Kさんが、あなたの配信を「神回」としてSNSでシェアしました』

白鳥の顔が、再びリンゴのように赤くなる。

「あぁぁ、またこの『K』! なんでこのタイミングで……! 佐藤くん、あんたも聞きなさい。このリスナー、本当に私のこと分かってないのよ! こういう時だけ熱心なんだから!」

……目の前で、推しが俺(リスナー)への愚痴を、俺(本人)にぶちまけている。

俺は確信した。

今日から俺の高校生活は、天国と地獄のハイブリッドになる。

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