俺の嫁は最強のオーク。無人島を開拓して、異世界一の村を目指すことにした。
@tomoibito
第1話
プロローグ
港町は、いつも騒がしかった。
潮の匂いと獣脂の焦げる匂い、香辛料の甘さが入り混じり、朝から人と声が溢れている。石畳の通りを、荷車が軋みを上げて進み、背負子を担いだ人間、角のある亜人、耳の長いエルフが、当たり前のようにすれ違っていく。
ここは王国と都市国家を結ぶ要衝。
商人にとっては金の流れる場所であり、傭兵や冒険者にとっては仕事に困らない街だった。
鎖帷子を鳴らす傭兵。
剣と盾を背負った若い冒険者。
魔鉱石を扱うドワーフ職人と値段交渉をする商人。
世界は活気に満ちている。
――少なくとも、俺以外は。
「……はぁ」
喧騒から少し外れた場所、木箱の上に腰を下ろし、俺は小さく息を吐いた。
霧ヶ谷(きりがや)ハルキ。
年齢は二十代半ば。職は、なし。
……正確に言うなら、この世界では、だ。
俺はもともと、この世界の人間じゃない。
気がついたら死んでいて、気がついたら異世界にいた――よくある話だ。
中身は、くたびれたオッサン。
若い体をもらったところで、人生がリセットされるわけでもなかった。
与えられた能力は一つだけ。
【鑑定】。
物や人の情報が、ぼんやりと頭に浮かぶ。
便利ではあるが、戦闘能力が上がるわけでも、魔法が使えるようになるわけでもない。
剣は凡庸。
魔法の才能もなし。
特別扱いされる要素は、何一つなかった。
「……転生した意味、あったのか?」
そんな言葉を、何度飲み込んだか分からない。
日銭を稼ぎ、安宿で寝て、また働く。
異世界に来たからといって、上手くいくわけじゃない。
むしろ、現実は厳しかった。
転生後の仕事は長続きせず
冒険者は命が軽すぎる事を知り
傭兵は消耗品。
商人になるには元手も信用も足りない。
そうして俺は、気づけばこの港町に流れ着いていた。
「……みんな、前に進んでるよな」
商人は金を回し、
傭兵は戦場を渡り、
冒険者は名を上げる。
俺だけが、ここに取り残されている。
それでも。
心のどこかで、俺は思っていた。
――何か、まだチャンスはあるんじゃないか、と。
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