第3話 忌み子は冒険者になる
「お嬢ちゃん! 次もよろしくな!」
「はいは~い! おっちゃんも次は負けてよね!」
「アハハハッ! お嬢ちゃんも言うようになったね!」
そんな笑い声が飛び交うのが、すっかり日常になっていた。
祖国を追放されてから一年半。
私は、魔術が発展している国――リアリンツ王国、その辺境の街『マルスティナ』で、凄腕冒険者サティナとして冒険者ライフを送っていた。
というのも、私の魔術師としての実力は、やはり他の魔術師を圧倒するものだったらしい。
冒険者ギルドで鑑定を受けた際、
『あなた、本当に平民だったのですか!? この膨大な魔力量に、修めている魔術の数……どう考えても貴族、いえ……王族としか思えませんよ!』
と、受付のお姉さんに本気で驚かれたほど。
――まぁ、生まれは一応、精霊術で有名な国の第三皇女。
間違ってはいない。
その騒ぎを聞きつけたギルド長に呼び出され、事情を説明すると、
『まさか……あなたが隣国で『人柱』とされていた第三皇女で、あの“魔の森の守り人”だったとは』
と、今度はギルド長まで絶句した。
どうやら、私が祖国で『忌み子』として『人柱』にされていたことは、隣国にも届いていたらしい。
そんな私が『魔の森』でチート無双をしていた結果、マルスティナ周辺では、私はいつの間にか『魔の森の守り人』と呼ばれていた。
……うん、完全にやりすぎた。
ただ、ギルド長は私の事情を知った上で、王族へ報告するものの、表向きはただの冒険者として扱うことにしてくれた。
それから私の冒険者ライフが始まった……のだけど。
新人冒険者ながら、あっという間に他の冒険者たちから一目置かれる存在になってしまった。
まぁ、元がカンスト魔術師キャラなのと、『冒険者、やってやる!』とやる気に満ちすぎて手加減を一切しなかったのだから仕方ない。
こうなるなら、もう少し魔術を控えめに使うべきだったかも。
ちなみに、私が今も魔の森に住んでいることは伏せていて、森へ戻る時は認識阻害魔術で姿を隠しながら移動していた。
騒ぎになる未来が、簡単に想像できたから。
そうして私は、冒険者としてクエストをこなしつつ、街の図書館で独学でこの世界の魔術を学び、屋台のおっちゃんや冒険者仲間と顔見知りになり――
第二の人生を、思う存分謳歌していた。
そんなある日。いつものように屋台で串焼きを買い、食べ歩きをしながら魔の森へ戻った直後。
ぞわり、と。
今までに感じたことのない、圧倒的な密度の殺気が、肌を突き刺した。
「この感覚って、まさか……!」
脳裏に浮かんだのは、前世でも今世でも、嫌というほど耳にしてきた言葉。
「スタンピード!?」
次の瞬間、遠方から無数の魔物の咆哮が轟き、森そのものが揺れる。
そして、魔物の大群が地響きを鳴らしながら、こちらへ向かってきた。
さらに――背後から、けたたましい警報音。
森を囲むように鳴り響くその音は、祖国にいた頃、遠くで聞いたものと同じだった。
アマンダが教えてくれた。
――魔物の大群が暴走する、災厄の合図。
「マズいわね。このままじゃ、街ごと飲み込まれる!」
私は串焼きを一気に飲み込み、拳をぎゅっと握りしめた。
「許さない」
ようやく手に入れた、私の第二の人生を壊すなんて。
何より――多くの人たちを傷つけるなんて。
「――絶対に、許さない!」
収納魔法で、使い込まれた杖を取り出す。
手に馴染んだ感触を確かめながら、迷いなく魔力を流し込む。
次の瞬間、私は飛行魔術で宙へと舞い上がった。
――その姿が、隣国から騎士団を率いてきた第三皇子の目に映っているとは。
この時の私は、まだ知る由もなかった。
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