弱小冒険者ローグ──覚醒力と身体能力で切り拓く、Fランクから頂点への軌跡
塩塚 和人
第1話 弱小冒険者ローグ
ギルドの木製の扉を押し開けた瞬間、ローグは小さく息を呑んだ。目の前に広がる冒険者たちの熱気、鋭い視線、武器のきらめき――すべてが、彼には圧倒的すぎる光景だった。まだ朝の光が柔らかく差し込む館内で、すでに冒険者たちは任務や訓練に励んでいる。ローグは少し小さく背を丸め、手の中で握った書類を見つめた。
「……俺、ここに居てもいいのかな」
心の奥で小さな不安が膨らむ。少年の名前はローグ。見た目はごく普通の少年だ。小柄で、特別目立つわけでもない。しかし、そんな自分に、どうしても期待されている気がしてしまうのが怖かった。
ギルドの受付を担当する中年の女性が、にこやかに手招きした。
「やっと来たのね、ローグ君。書類は確認済みよ。今日からFランク冒険者として登録ね」
ローグは小さくうなずき、書類を渡した。女性は手際よく処理を進めながら、ふと彼の顔を覗き込む。
「ふふ、緊張してるわね。でも大丈夫。あなたにもできることはあるわよ」
その言葉にローグは少しだけ肩の力を抜いた。だが、胸の奥で不安は完全に消えることはなかった。
ギルドの広間に足を踏み入れると、さまざまなランクの冒険者が集まっている。Sランク、Aランク、Bランク……まさに戦士たちの群れ。彼らの体格、装備、立ち振る舞いは、ローグには遠い世界の住人のように映った。
「うわ……Fランクって、こんなに弱そうに見えるんだな」
無意識に呟いたその声は、近くの少年に聞かれたらしい。
「おい、お前が新入りか? Fランクなんて、まだまだ雑魚だろ」
ローグは顔を赤くし、言葉が出なかった。だが、その瞬間、隣に立っていた少女が口を挟む。
「ほっときなさい。新入りだって最初は誰でもそうよ」
ミラ――彼女は同じFランク冒険者で、今日が初めての依頼だという。落ち着いた声に少し救われ、ローグはうなずいた。
登録が完了すると、ギルドマスターが現れた。長い髭をたくわえた年配の男性で、目には知識と経験の深さが宿っている。
「ローグ、初任務は今日からだ。Fランクでも、できることはある。大切なのは、自分の弱さを知ることだ」
その言葉に、ローグは少しうなずいた。弱さを知ること――それは今の自分に必要なことだと、無意識に理解していた。
初任務は、近郊の森に出没する小型モンスターの討伐だった。依頼書を受け取り、仲間と顔を合わせる。ローグのチームは、ミラ、同じFランクの青年ケイン、そしてベテランのCランク冒険者・リオ。
森に入った瞬間、冷たい風が木々を揺らし、葉がざわめく。ローグは剣を握り、神経を研ぎ澄ませるが、心臓の鼓動は速く、手がわずかに震えた。
「油断するな。森には小型モンスターでも致命傷になる生物がいる」
リオの低く落ち着いた声が響く。ローグはうなずく。目の前で枝が揺れ、土が小さく跳ねた――小型のゴブリンが姿を現したのだ。素早い動きで跳びかかる。
ローグは剣を振るうが、タイミングがずれ、空を切る。ゴブリンの爪が肩をかすめ、痛みが走る。悔しさがこみ上げる。
「くっ……俺……!」
焦りと恐怖が混ざるその瞬間、胸の奥で何かが弾けた。手足が軽くなる感覚、筋肉が反射的に動く感覚――普段の自分では考えられない速度で剣を振り、ゴブリンの攻撃をかわすことができた。
「なんだ……これ……?」
自分でも驚くほどの反応速度。だが、それは長く続かず、短時間で筋肉と関節に激しい疲労が走る。覚醒の兆し――それをローグは初めて体感した。
ミラが素早くゴブリンに斬りかかり、ケインも後ろから援護する。ローグはその隙を突き、跳躍して一撃を加えた。ゴブリンは悲鳴を上げ、森の奥へと逃げていく。
「すごい……でも、無理はするなよ」
ミラの声に、ローグは小さくうなずく。覚醒の力は魅力的だが、身体に負荷がかかることを理解した。
森をさらに進むと、小型モンスターの群れが次々と現れた。ローグは恐怖と焦りで再び覚醒しかけるが、今度は意識的に力を制御し、必要な時だけ使うことを心がけた。
戦いの最中、ローグの中で確かな感覚が芽生える――「身体が覚えている」。感情が高ぶると、普段の自分では考えられない力が湧く。その感覚はまだ完全ではないが、確かに自分の中にあった。
森の奥からモンスターの咆哮が響く。胸の奥で芽生えた覚醒の感覚と共に、ローグは小さく息をついた。
「……俺、いつか……絶対に、強くなる」
Fランクの弱小冒険者として、ローグの冒険はまだ始まったばかりだ。しかし、胸の奥で芽生えたこの力――身体と感情を使いこなすことで強くなれるという確信は、少年を次の一歩へと押し出していた。
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