第3話 ボス即斬!砂を掛ける妖怪にご注意!

“だ、だれ……?”

“Eランクが第五層?どうなってんのこのダンジョン”

“冒険者の人手不足もここまで来たのか……南無南無”

“↑それ最近は増加傾向になってるから人手不足じゃないらしいぞ”

“Eランクの野良が来ても嬉しくないけど……”

“流石にEランクは嘘だよな?な?”

“自◯志願者でおわった”

“個人配信で凸やめてほしいって言ってたのにまだ凸者いるの?”

“凸者対策で配信めっちゃ減らしてんのに、これじゃあ動画勢に後戻りだけどどうすんのこいつが責任取ってくれんの???”

“……俺エアプだけどこれディープフェイク?”

“ダンジョン冒険者ほど頭おかしいやつに日頃会えるコンテンツはないって話があるけど、本当にそうすぎて笑った”

“爆笑爆笑爆笑爆笑”

 

 現状を信じられないまま私は現実逃避気味に玉石混交なコメントを見る。

 勢いの早すぎるチャットに呆れながら、私はその男に声を掛けた。


「緋月、さん? どうしてここまで来たのかわからないけど、私のことを見捨てて逃げて!! あんたじゃ絶対にこいつに勝てない!」

 

「落ち着いてくれ。ギャルの人。Eランクは日本の話で、実際はランク777だから実力は折り紙付きだ」

 

 何が折り紙付きなのか分からないが、緋月は首を振り指を振って、自信満々に告げる。

 あと、私はギャルの人じゃなくてちゃんと白川響しろかわひびきという名前があるんだけど。


「とりあえず、逃げて!!」

 

「俺は長男だから逃げない!」

 

「そんなことは関係ないでしょ!?」

 

 彼は本気でこちらを無視するつもりで、フクロウに向けて歩みだす。


 正気じゃない――


 そう思って立ち上がろうとするも、体内の痛みが足を押さえつける。

 どうしてこういうタイミングで……!

 

署名シグナトゥーラ。暴れろ!我が黒鉄くろがねの子よ!」

 

 指を天に突き立て、その先に黒色の砂塵が集う。

 砂塵が集まる際、周囲の微細な金属が、甲高い摩擦音を上げながら友利の指先へと吸い寄せられていく。

 空気中の湿度が急激に奪われ、その場には静電気のようなビリビリとした、不快な緊張感が大気中を満たした。


「視聴者に説明しよう。この指先には圧縮させた小型ダンジョンがある。今からこれを当てる実験をしようか」

 

 緋月は淡々と語りながら、フクロウは警戒してクチバシを開ける。


「ジャアアァァァアアッ」

 

 何を素早く引きずるような音を立て、これ以上近づかないよう警告する。


「えーっと、質問だけどギャルの人。こいつのどんな攻撃でダメージを受けたんだ?」

 

「……相手に攻撃を仕掛けたら、どうしてかあたしの体にも似たようなダメージが来た」

 分析してみれば、どこかカウンターのような能力だと思う。私をギャルの人呼ばわりには少し腹が立つも、そこは置いておこう。


「了解だ。まあ経験則上、これは数で勝てる」

 

 そうはっきりと宣告して彼は指を下ろし、付随して集る砂ぼこりがフクロウに向けて駆け出した。 

 その群れをフクロウが羽で払おうと翼を動かすと、逆に砂ぼこりは羽の間に挟まって往く。


「……何してんだろ」  

 

 理解ができず、チャットに目をやる。


“何してんのこの人?”

“Eランクが出しゃばらないでくれ、、、、、、”

“この砂塵みたいなやつ何?土属性魔法?”

“↑魔法は杖使わないと打てないから違うだろ”

“めちゃくちゃ自信満々だけど勝てんの?”


「だよね……」

 

 一人相槌を打ちながら、一度視線を戻す。


 緋月はずっと、砂塵を羽に掛ける動きを繰り返している。まるっきりダメージを与えていないというのに、飽き足らない様子で彼は淡々と同じ作業を繰り返していた。

 

 その光景を見たフクロウにも攻撃の意図が理解できず、やがて防御を辞める。

 

 先程私を殺すとした時と同じように、舐めたように身体をゆらゆらさせながら、あしゆびを動かして近づいていた。

 

 やっぱり、Eランクでは勝てないんだ。


“かっこつけ失敗してて草生える”

“引き際見失ってんのかこいつ?”

“早く天城を連れて逃げてくれやまじで!”

“フクロウにすら同情されてんじゃんこいつ”

“何を見せられてるんだ俺達……”


 意味を介さない彼の攻撃の繰り返しに私は疲れを感じる。

 先ほど助けに来たときまでは憧れの感情を抱いてただけ余計に。


 もう少しグレネードはなかったのかな……?

 

 自分のスクールバックからアイテムを探る。あれさえあれば、一時的ではあるものの、時間を作って彼に私を背負ってもらって逃げることぐらいはできる。


 自分なりの策を考えて中を漁るも、何もなかった。


 道中、思ったより苦戦して使いすぎたみたい。いや、私のスキルで無理矢理に音を作ろう。

 かなり魔力を消耗して、しばらく動けなくなるかもしれないも、生きて帰れることに越したことはない。


 

 よし、彼に声をかけて共に脱出しよう。


 

 そう、思って声を掛けようと、もう一度おぼつかない両足を動かして立ち上がる。


「準備完了した。待ってくれてありがとなフクロウ」

 

 あれはただ勝ちを確信して馬鹿にする動きなのに。


 

 そう思う前に状況が変化した。



 「この身に吸いつけ。黒鉄くろがねを鋳造せよ」

 

 手を伸ばし、拳を握る。

 縄に押さえつけられたように肉が一瞬で収縮し、グググッと締め付ける音と共に身体が縮むと思えば――


 ――パァッン。

 気球に針が突き刺さったように易々と弾け飛んだ。

 血の一滴すら残さず、その場にはただ黒鉄の砂塵だけがキラキラと舞い落ちる。

 あまりにもクリーンで、あまりにも異質な死だった。

 フクロウが消え去ったと同時に、ぶわっと空気中に広がっていた黒い粒が全てが緋月の手元に戻って消失する。


 先ほど砂塵だと思っていたものが全て消失し、空間が一層綺麗になる。


 ――何あれ。

 

 視線に映るのは、モンスターがいた場所でただキラキラと舞い落ちる砂の輝きだけ。


 あたしを殺そうとした化け物が、


 モンスターが残す嫌な悲鳴も、汚い血も残らない。

 その非現実的なクリーンさが、あたしの知るどの戦闘よりも、その男が遥かに恐ろしい存在であると本能が伝えている。

 倒したのではなく、消している。


 時間が止まった気がして、私はぼーっと彼を見つけた。


 それから意識を取り戻したのは、宝箱部屋につながる扉が内側へ引かれ、壁にコンッとした乾いた衝突音を放った時であった。


「強すぎない……?」

 

 顎が落ちる感覚がした。今の光景がただひたすらに信じられなくて、またコメントに目を配る。


“!?!?!?!?”

“これがEランク??少なくともAとかあるでしょこの強さ……”

“ちょっとこれは流石に信じられんわ。暗がりパーティは一応全員Aランクだったんだぞ?”

“そもそもダンジョンに人が全然いなかったこともおかしいしこの配信自体本物なの?天城って、炎上してた人でしょ?”

“前言続行wwwダンジョン冒険者は本当に頭おかしいやつに日頃会えるコンテンツすぎて草生えた”

“誰かこの人知ってる人いるの?本当に頭おかしい強さしてるじゃん”

 もう一度、コメント欄が怒涛のように流れ、私もそのコメントにしばらく頷きを繰り返すしかなかった。


「ふぅ……これでおしまいか」

 

 自分の腕を見つめて、緋月はこちらに歩み寄る。


「あ、ありがとうござい……あいや、あざーっす!……今の、あんたがやったの?何が起きたのかマジで分かんなかったけど……」

 

 先程舐めたことを考えてすみませんでした……!  

 なんて言い出したくなる気持ちを抑え、色々と溢れ出しそうな感覚を無理やり隠す。

 変だと思われてないか、軽く恐れる気持ちで緋月の目をじっと横目で見てただ頷く。


「どういたしまして。あー、えっと……助かってよかったよ。……名前、聞いてもいいかな?」

 

 緋月が、まるで大切な人を見るような優しい目でこちらを覗き込む。

 その目に吸い込まれるように、私は思考を飛ばして口を開いていた。

 

「えっと……響です」

 

 言い終わってすぐ、自分の口を塞いだ。

 私、一応ネットでは偽名でやってんのになんで本名、しかも下の名前を教えちゃってんの!


「へえ、ひびきが苗字――」

 

「ミュート、ミュートボタンは……」

 

 混乱を抑えきれないまま、スマホの上で手踊らせながらミュートボタンを探る。

 数秒のうちにミュートボタンを見つけるも、焦りで配信終了ボタンを押してしまう。


「――なんて珍しいね」

 

「ま、間違えた。ど、どうしよう……」

 

 自分の顔を両手で抑えて、恥ずかしさでいっぱいになる。


「え?」

 

「いや、本当は天城です。少し取り乱して間違えたんです」

 

 合わせられる目がないと感じ取りながら、地面のシワを数え始める。


「そっか、天城さん。大丈夫だった?」

 

「はい。それはもう……ほんとに」

 

 首肯。

 

「ならよかった。いやーごめんね日本語が下手で」

 

「へ?外国人だったんですか?」

 

 予想外の言葉に反応して、私は目を合わせる。彼は髪を軽く掻きながら気まずそうに笑う。

 

「違うよ?お兄ちゃんによく下手くそだとからかわれるから念の為さ」

 

「な、なるほど……」

 

 戸惑いながら、じっと見る。

 人に好かれそうな、柔らかいのか鋭いのか測りかねる顔に、気だるさを感じさせる髪型。

 お腹が空いたからコンビニに行く、そんな気軽さのパーカーを着込み、その外側には水はけの良い青黒いジャケットを重ねている。

 街で見かければ違和感のない服装ではあったが、このダンジョン内では逆に違和感を生む。

 もっと早く気づくべきだったのかもしれないが、あの時は砂塵に覆われていて、視界が利かなかった。


「こっちも配信終わりにしようかな? けが人がいるわけだしさ」

 

 スマホを取り出して彼は配信を終わらせ、ドローンをキャリーケースに仕舞う。

 今気づいたけど、この人キャリーケースを引きづって戦ってたの!?

 どうやって五階層にやってきていたのよ……。


「んまあ、歩ける?無理なら背負うよ」

 

「だ、大丈夫……少し休んで元気になったから」

 

「そうか。本来なら治癒魔法でもかけるべきだけど、魔法が上手く使えないんだ。ごめんね」

 

 もう一度目が見開く。

 今のは魔法にしか見えないけど――なんてツッコミをしたくなったけどそれは抑えることにした。

 

 ほんと、今日は驚きっぱなしで気持ちが持たないや。

 

 

 

 



 

 

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