メビウスの子供たち

第1話 招待状

朝倉 恒一は、郵便受けに差し込まれた

無地の白い封筒を見つめていた。


差出人の名前はない。

切手もない。

ただ、自分の名前と住所だけが、

まるで事務的に印字されている。


「……来たか」


そう呟いた声は、思っていたより落ち着いていた。


テレビでは連日、

高齢化対策の成功例が報じられている。

数字は改善し、未来は明るいと、

アナウンサーは笑顔で言う。


だが、

具体的な話は、何一つ語られない。


封筒の中には、

・ある施設の住所

・入所日は一カ月後

・それまでに行うべき「生活整理項目」

・家族への説明は不要

と、淡々と書かれていた。


最後の一文だけが、

異様なほど大きな文字で記されている。


――「この選択は、あなた一人のものです」


恒一は、仏壇の前に座り、

亡き妻の遺影を見上げた。


「俺は、もう一度やり直すべきなのかね」


答えは返ってこない。

だが彼の胸には、

恐怖よりも、

静かな諦めと、わずかな期待が混じっていた。


人生は、

終わりに向かうだけのものだと

信じてきた。


もしそれが、

円環(メビウス)のように

裏返るのだとしたら――。


封筒を閉じた恒一は、

ゆっくりと立ち上がった。


一カ月後、

彼は「80歳の老人」として、

この家を出る。


そして――

戻ってくることは、ない。

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