神域調査は捗らない~葉山と氷室の不可思議案件報告書~
わだ平
第一話 プロローグ
不況、物価高、環境破壊、食糧難 、エトセトラ——いま、日本では数多の問題が渦巻き、人々を取り巻く環境は急速に変化している。
生きることが、困難になり、人々は日々の暮らしに疲弊していた。
だが、それは人間だけに限らない。
この国に古くから息づいてきた神々もまた疲弊していた。
——日本には、古来より八百万の神々が住まう。
この地に生きる人々は、古来より神を畏れ、敬い、その加護のもとに暮らしてきた。
神は雨を降らし、田畑に実りを与え、人々は感謝の祈りを捧げた。
人が神を信仰し、神が人に加護を与えた。そうして、この国は長きにわたり、均衡を保ってきたのである。
しかし、山を削られ、川を濁され、田を干上がらせ、さらには祈りすらも忘れられた神々は、その力を削がれていった。
ネットやSNSによって瞬く間に広がる情報の奔流は、人々の憎悪や欲望などの負の感情を増大させる。それにより生み出された『穢れ』は、力の失いつつある神々にとっては、遅効性の毒のように、そして確実にその神性を蝕み続けてきた。
その結果、神々は古来より担ってきたその本来の役割を果たせなくなった。
毎年のように起こる異常気象などは、その兆しにすぎなかった。
力を失った神々は、『穢れ』に蝕まれ、本来護るべき人の子やその土地に様々な現象をもたらすまでに至った。
ときに、昼と夜を入れ替え、
ときに、一夜にして湖を干上がらせ、
ときに、町を迷宮と変え、
ときに、人に害をなす妖を呼び起こした。
現代科学では説明できないそれらの現象を、人々はそれを怪奇現象と呼び、それを引き起こした神々を『狂い神』と呼んだ。
日本各地で狂い神により引き起こされた怪奇現象は、もはや社会問題と化した。
政府は事態の深刻さを受け止め、ついには専門組織を設立するに至った。
これは、そうして発足した組織の一つ、『怪奇現象対策局 神域調査課』に所属する調査員と、その相棒が織りなす物語である。
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