第23話 拡大

「もう、国って言ってもいいんじゃないの?」

「アンナ、何のことだ?」

「だってさ、ここって街って言うよりも小国くらいの広さがあるんだよ」

「それが?」

「あー、もう!建国しろって言ってんの!」

「ダメだな。それはダメだ。全獣人族が集い、幸せになれることが大前提だ。ここの街にいる奴らは幸せそうだ。じゃあ他国の同胞は?シルヴァン神国には一人も獣人はいないのか?全領土を見たわけではないだろう?俺はな、元の世界じゃ百獣の王と呼ばれていた。すべての獣の頂点にいるのが俺の種族名ライオンだ。この程度の街くらいで王が名乗れる筈がないだろうが!」

「そっか。じゃあさ、世界中の獣人が集まって、みんなが幸せに暮らせる時が来たら建国するってことだよな」

「あぁ、その通りだ」



ロアザナトス街の中心にあるレオンとタイガの暮らす屋敷。その屋根の上でレオンはアンナへ誓うのである。



「おーい、兄ちゃんにアンナさーん。降りてきてよー。始められないよぉー」

「おー、スマン。すぐに降りる」


ピョンと屋根から飛び降りてタイガの前に降り立つ。

今日は街が出来て二年目の記念日である。

街総出で祭りである。

住民は十万人を超えた聞いている。但し、住居が確保できない獣人も多く、その場合にはぐるりと囲っている外壁の外に暮らしている。


ウィンザー王国からシルヴァン神国の数キロ手前までがロアザナトス街である。

約十五キロ四方の街であり、小国と名乗るには小さすぎるし、烏滸おこがましく感じていた。


どの国にも属さない獣人のみの街。

税はゆるく設定されてある。これは、まず住民に腹一杯食べて欲しいとの理由からである。

その点、法には滅法厳しい。

ケンカの場合は両成敗として一ヶ月間の強制労働となる。

部隊所属の兵士であれば、二ヶ月間は歩兵部隊長のグスタフのもとで徹底的にしごかれてしまう。



当初はウィンザー王国や他国からの援助もあったが、最近、ある程度は自給自足が出来るようになってきた。

街の外れでは農業、畜産も行われている。

そして、待望の冒険者ギルドが設立されたのだった。

街の獣人も冒険者として活躍しているようだった。

今や人族の冒険者とパーティーを組む者も多くいるらしい。

門の前には冒険者用の商店も立ち並んでいる。



「楽しそうだな」

「えぇ。アタシたちも行こうよ」

「そうだな。タイガも行くぞ」

「えぇー、お二人の邪魔にならないかなぁ〜」

「バカがっ」

レオンに叱られるが、アンナは嬉しそうにニヤけている。


街の中央では音楽が鳴り響き、獣人族の子どもたちが可愛く踊っている。

「あっ、レオン様だ。レオン様ー」

「おぉ、元気だなぁ。祭り楽しんでるか?」

「うん。私たち、こんなに楽しいの初めて。父ちゃんも母ちゃんも嬉しそうだよ」


シカの獣人の女の子が指差す方へと目を向けると、夫婦仲良く酒を酌み交わしているようだった。


「そうか、そうか。じゃあ、お友達のところにお戻り」

「はーい。レオン様、またねー」


子供に手を振りかえし、ふと横を見るとタイガとアンナが生温かい目でニヤニヤと何も言わずにレオン見ていた。


「なんだ?」

「いやー、兄ちゃんでも優しい目をするんだなって思っただけだよ」

「そうそう、アタシにも優しい口調で言葉かけて欲しいもんさ」

「バカが!行くぞ!」



――――


翌日、飛行部隊長のアヴィスが執務室へと報告に来る。

内容はというと、シルヴァン神国騎士らしき数名が森の中から様子を窺っているようだとのことである。


「それは確かなのか?」

「はっ、私はハヤブサの種族でありますのでハッキリとは認識できませんでしたが、部下にイヌワシ鳥人がおります。彼は十キロ先の動くものを認識できる能力を持っております。まず間違いは無いと思われます」

「十キロ先から見えるのか……。凄いな。あぁ、悪い、それで奴らはまだいるのか?」

「はい、まだウロウロとしていることでしょう」

「そうか。タイガ、城門を少しだけ開けるようにスキルで伝えろ。それと誰か、アンナを呼んで来い」


――――

「なに?何か用?」

「訓練中に悪いがな、どうやらシルヴァン神国のお客さんが来てるらしい。今から門を開けさせるんだが、奴らが一歩でも我らの領域に足を踏み入れた瞬間に捕えろ。いいか、殺すなよ」

「はーい、了解。部下も何人か連れて行くわよ」

「あぁ、そうしてくれ。くれぐれもケガをするんじゃないぞ」

「わかった。じゃ、先に行っとく。タイガ、五分後に開けさせて」


アンナはすぐに部屋から出て行ったが、多分すぐに奴らの木の上で待機するんだろうとレオンは確信している。


「フッフッ、クォォォォォー。うん、伝えたよ」


屋敷から見ると城門はゆっくりと開き始める。丁度、人間が一人入れるくらいの広さまで開いたようだった。


「ちょっとここからじゃ見えないか……。タイガ、奴らは何のために来たんだと思う?ただの散歩じゃあるまいしな」

「そうだね。街を覗いて戦力を分析するつもりだと思うよ」


タイガがレオンに説明するのは、城門から見える景色に何人の人がいるかを数え、それを領地の広さで計算するのだと言う。


「そうか。……うん、サッパリわからん」

「……。だと思ったよ」


――――

「捕まえて牢に入れてるよ。今、グスタフのおっちゃんが尋問中。それと城門は閉めるように言っといたからね」

「アンナ、ご苦労だったな。ありがとう」

「どう致しまして。んじゃ、アタシは訓練に戻るからね」



グスタフが尋問という名の拷問により、捕えられた四人のシルヴァン神国の兵士から聞いた内容は、懲りずにコッソリと兵を集め、攻めるために斥候として送り出されたと話したようだった。

但し、国にはまともな兵が少なく、強制的に男の住民を徴兵しているようだった。

下は十五、六歳から上は七十に近い老人までもが集められているようだった。


また、住民の女性や子供は召喚時の生贄として別の場所へと連行されて行ったというが、その場所は知らされていないので不明のようだ。

召喚魔法は神により禁忌指定されているのを知らない為に、そんな暴挙に出たのだろう。



「相変わらず、胸糞の悪い連中だ!やっぱり、あの時に滅ぼしていた方が良かったかもしれん」

「兄ちゃん、取り敢えず各国には情報を伝えておくよ」


タイガはレオンの隣の自席で手紙を書き始める。

その手紙を読む各国元首たちは、呆れるか、怒るかのどちらかだろう事は想像に難く無い。


「うーん、まるで羽虫のような奴らだな。タイガ、各部隊長を集めて相談しようか?」

「そうだね。すぐに呼び寄せるよ」


部隊長全員との会議により、諜報部隊全員で情報をかき集めてくることになった。

アンナ率いる特殊部隊は常に領地内に潜み、同様の斥候が入れば即捕縛となった。

グスタフ率いる歩兵部隊は、街をぐるりと取り囲む外壁の巡回を今以上の人数で行うことで、シルヴァン神国の抑止力になるだろうと考えてのことだった。



タイガが手紙を送ってから数日後、ウィンザー王国の騎士や兵士が多く駐留することが決まり、領地の一角に宿舎の建設も始まっている。

同様に連合軍で一緒に戦った国のサハラド王国の兵士たちも駐留することになっている。


エルダー女王国は、精霊魔法が得意な治癒魔法師を大勢向かわせているらしい。

他国も同様で多くの兵士や物資を持って向かっていると聞く。


前回の連合軍百万の軍隊にはならないが、かなりの抑止力になるだろう。

レオンは、そう思っていたのだが……。



――――

カンカンカンカン


「火事だぁー、火事だぁー」


大声とともに監視塔の鐘が鳴り続けている。


驚いて飛び起きたレオンの部屋へタイガが飛び込んでくる。


「タイガ、なにがあった?」

「壁の外から火矢が飛んできてるんだ。城門側の住居や商店街が燃え始めてる」

「タイガ、歩兵部隊と特殊部隊に命じて向かわせろ!」

「もう、命令してるよ」



ドンドンドン


「誰だっ?入れ!」

「失礼します」


入って来たのは飛行部隊長のアヴィス。


「ご報告いたします。シルヴァン神国の兵士と思われる者が千人程度で火矢を撃ちこんでおります」

「千人なら対処はすぐだろうが、そんな報告に来たのか?」

「いえ、後方に約百万の兵士ありとの事です」

「……、百万!?間違いないのか!?」

「はっ、夜で高高度からの確認ではございますが……」

「よしっ!俺も出る!飛行部隊はそのまま上空より監視を続けろ!」

「はっ!」



レオンは着替えもそこそこに、取りあえず城門へと走る。タイガはすでにスキルを使って塀の外に出ている。

報告通り、門前の建物は焼け落ちているものも多い。

まだ、火はごうごうと燃え盛っている。

その火の為に、門の外へ出る事ができない兵士も多くいる。


「俺達を出さないようにする為か……」


そう言いながらも燃え盛る建物の中を走って行く。

レオンに火は通用しない。



門の外へと走り出ると、タイガ、アンナ、大勢の兵士たちがポカンとした顔をして立ち尽くしている。


「おいっ、タイガ!何があった!」

「……あぁ、兄ちゃん。火矢を仕掛けて来たやつらは片付けたんだけど……」

「ハッキリ言え!」

「あぁ、ゴメン。後方に大勢の兵士がいたのは僕も視認したんだよ。だけどさ……、一瞬で消えたんだ」

「はぁ?」

「タイガの言う通りだよ。アタシもこの目で見たからね。奴ら、一瞬で姿を消したのさ」


タイガもアンナも幻を見たわけでもなさそうで、また嘘をつく必要もない。


レオンは百万の兵士がいた方向から目を背けることができなかった。

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