第20話 楽園
「みなさーん、お待ちしてましたよー。どうぞ、こちらにいらしてくださいねー」
タイガのゲートを潜り抜け、出てきた場所は獣人族ばかり。
すでに救出されたらしき同胞もいるようで、列に並ぶようにと指示される。
列に並んでいる同胞は一様に汚く、みすぼらしい姿であり、足取りフラフらとしてゆっくりと歩いている。
「はーい、次の方。どうぞー」
「あ、あぁ」
「見た目で種別はわかりますけど、一応お聞きしますね。名前と種別とご家族の有無を教えてくださいな」
「あ、あぁ、俺はク、クマ族だ、です。か、家族はい、いない」
「お名前は?」
「あ、あぁ、な、名前はボルガン」
「はい、ありがとうございました。次にこの魔道具に触れてくださいね。痛く無いですから安心してくださいね」
ボルガンはソッと魔道具に触れる。少し、冷たく感じる。
「はい、犯罪歴はないですね。では隣の列に並んでくださいね。はい、次の方。どうぞー」
ボルガンはまた列に並ぶ。
今度は白衣を着たウサギ族の女性から病歴や現在のケガや痛みの有無を聞かれる。
そこの問診も終わり、またまた違う列に並ばされる。
次は大きな建物へと案内された。
「よし、次っ!ここで服を全部脱いでくれ。脱いだ服は横のカゴに入れるようにな。代わりの服は用意してあるから心配そうな顔をするんじゃない。脱いだら入れ」
ボルガンも言われた通りに服を全部脱ぎ捨て、中に入るとムワッとした熱気を感じる。
「何してるんだ?後ろがつかえてるんだから、早く風呂に入れ。いいか、キレイにしろよ。石鹸も使っていいからな。あー、注意点だが、風呂に浸かったまま寝るなよ!」
「風呂?」
「風呂を知らんかぁ。まぁ、いい。中に入れば他の担当がやってくれる。さぁ、入った入った」
さっきの熱気は大きな浴槽の湯気だと理解した。
中には半裸のキツネの獣人がボルガンを椅子に座らせて石鹸の使い方や浴槽の入り方を丁寧に教えてくれた。
(そう言えば、さっきの獣人もキツネだったな。言い方は乱暴だったけど、優しい眼をしてたなぁ)
ガシガシと身体を洗うがまったく泡立たない。
モコモコと泡立つまで何度も洗うように言われていたのを思い出し、ボルガンは一生懸命に顔から足先まで洗うのだった。
都合、六回目にして、やっとモコモコと泡に包まれた。
その後の浴槽は天国のようで、思わず目を閉じてしまった。
(あっ、ダメだ。寝たら死ぬって言われてたぞ。あー、危なかった)
風呂から上がると脱衣所にいたキツネの担当者から真っ白なタオルと貫頭衣を渡された。
身も心も軽くなったボルガンが次の場所へと案内されたのは、これも大きな建物で、中に入ると大食堂のようだった。
ここでも列に並び、配られたスープを持って席に着く。
もっとガッツリとした食事をしたかったが、あまりにも飢餓状態が長いものは肉のような物を食べると逆に体調を崩すと注意されたからである。
ゆっくりとスープに匙を入れ、口へと運ぶ。
温かく優しい味が口いっぱいに広がる。
「ウッ、ウッ、ウゥゥゥゥゥ」
思わず嗚咽が漏れてしまったが、あちらこちらでも嗚咽が聞こえる。
同胞達も同じ気持ちなんだろう。
女獣人などは声を上げて泣いているほどだった。
食事を終え、宿舎と呼ばれる所へ行くように指示される。
その宿舎も見上げるほどに大きい。
指示された部屋に入ると、すでに三人の獣人がボンヤリと部屋の中央に固まっている。
「あー、ボルガンだ」
「「「えっ!」」」
ボルガンの声でハッとした三人の男達。
「あぁ、悪いな。ボーっとしてたぜ。俺はヤムス。アンタと同じクマ族だ」
「俺はウマ族のリゲルだ。よろしくな」
「オオカミ族のレムスだ。さっきは気づかずに悪かったな」
「さっきはなんでボーっとしてたんだ」
ボルガンが聞くとクマ族のヤムスが言うには、とにかくベッドに横になってみろと言う。
言われてベッドに横になると、一瞬で眠気が来てしまった。
「おぉ、イカン。寝てしまう所だった」
「そうだろ。だから三人でどうしようかと固まってたのさ」
「寝てもいいんじゃないのか?」
「いや、もしかして騙されてるかもしれないし、寝て起きたら夢でしたってのが怖いんだよな」
「「わかる、わかる」」
ボルガンも同じ気持ちなので三人の言葉にうなづいてしまった。
トントントントン
「あっ、ハイッ!」
ガチャリ
「なんで起きてるんだ?消灯の時間は過ぎてるんだぞ。早く、寝ろ!」
「「「「ハイッ!」」」」
見回りのサルの獣人に叱られ、大慌てでベッドへと潜り込んだ」
「あー、明日は全員の希望の職を聞くからな。もし、歩兵部隊に入りたいなら言ってくれよな。大歓迎するぜ。じゃあな、おやすみ」
「「「「おやすみなさい」」」」
パタン
扉が閉まり、足音は遠ざかって行った。
「なぁ、ここってさぁ、あの世なのかなぁ?俺たち既に死んでるのかなぁ」
誰かがボソッと呟いたのが聞こえた気がするが、ボルガンは強烈な眠気に抗うことができなかった。
―― 翌日 ーー
朝食後に全員が広場に集められる。
まだ落ち着かない様子の救われた獣人族達。
次はなんだろうとの好奇心と心配がないまぜになっているようだった。
「全員、傾聴!」
ゾウ族の獣人が大声を出して拉致被害者達へ声をかける。その声は大勢いる獣人達全員に聞こえるくらいの声量である。
「只今より我らが主、レオン様がお出ましになられる。レオン様がお話中の私語は禁ずる!良いかっ!」
(主って同じ獣人か?それとも人族か?)
ボルガンはこれから現れる自分たちを救ってくれた人物に思いを馳せる。
「レオン様、みな揃いましてございます」
「ご苦労様」
壇上に上がった姿を見た瞬間に、あぁ我らの王だと感じられた。
背中まで伸びた金に輝くたてがみ。
クマ族の自分よりも背が高く、身体は比べようがないほどに筋肉で覆われている。
その手から伸びている鍵爪同様の鋭い眼光。
鋼鉄さえも噛み砕きそうな太い牙。
ザザザザザー
レオンが現れ、一目見た全員が跪き、頭を垂れるのだった。
「みな、頭を上げよ。諸君らは救われた翌日である。まだ身体も本調子でないであろう。臣下の礼は取らず、その場に座るように」
座って怒られないかと思うが、逆らうことなど出来るはずもない。
恐る恐る、全員が座ることになった。
「うむ、そのまま聞いてくれ。まず、俺の名はレオン。そして横にいるのが弟のタイガだ。昨日、君たちの世話をしたのは我らの同胞である。しかし、先に君たちに言うべきことがある」
(なんだ?まさか奴隷って言わないよなぁ)
ボルガンは疑心暗鬼である。それはボルガンだけではないようで、皆もキョロキョロと目が泳いでいるようだった。
「まずは、今日まで良く頑張った!良く生きていてくれた!」
どこからか啜り泣く声も聞こえてくる。
ボルガンも涙を堪えるのに必死だ。
「我らは諸君が捕えられていたシルヴァン神国を敵国とし、打ち倒さんとの思いで集まった者たちである。獣人族を『半端者』と呼び、隷属の首輪で自由を阻害する。食事も満足に与えられていなかったのは、諸君らの身体が物語っている。さぁ、立ち上がれ!我ら獣人族の思いを一つにするべき時は来たのだ。今までの苦難を乗り越えてきた君たちだ。心が強いと俺は思う。我ら獣人族の尊厳を取り戻せ!」
ウワァァァァァァァァーー
レオンが壇上から降りて立ち去っても声は止まなかった。
涙を流しながら拳を振り上げる獣人たちであった。
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